第1277話 ■不惑

 今日は私の誕生日だ。かつての少年ももう40歳。石田衣良風に言えば「人生の楽しい方の半分が終わった」ということになる。おまけに厄年と来た。不惑などと呼ばれるようになったが、実際のところは不惑どころかいつも迷ってばかり。「今日の昼飯何にしよう?」でも迷ってしまう。

 かつては自分のことだけ考えていれば良かったものの、今では家庭や会社での板ばさみ。髪には白いものが増えた。とっさに人の名前が思い浮かばないこと、しばしば。電車やバスに飛び乗ろうと走ると息切れする。日頃の不摂生か運動不足か、見事な中年スタイルになってしまった。一方で、かつて買いたかったものなど、多少難なく買えるようになったけど、どこか満たされず、むなしかったりする。

 僕らの夢は何だったろうか?。かつて自分はエジソンのような発明家になりたかった。もしその通りになっていたら、今頃はロボットの研究なんかやっていたかも知れない。しかし現実は違い、文科系の事務職だ。そして、周りにあれだけいた野球選手になりたがっていた少年たちも今頃何をしているのだろうか?。唯一、高校のときの同級生がプロ野球選手になった。皆揃ってそろそろ四十だ。

 私がコラムのスタイルで文章を書き残すようになったのは飲み会の席などで昔話が受けて、それならできるだけ詳しく思い出して、書き残してみようというものだった。まだ道半ば。去り行くモノは何故いつも愛しいのだろう。そんな気分の今日。いつもの誕生日とはちょっと気分が違う。

(秀)