第1322話 ■風鈴

 あれは確か15年ほど前のこと。休みの日の夕方に妻と娘が風鈴を買って帰ってきた。まだ給料も安く、家族を抱えて苦しい生活を送っていた頃の話。近くの商店街に買い物に出た際に、風鈴売りのおじさんが売りに来ていて、娘が興味を持ったので買ったという。風鈴の周りにいろいろと装飾があり、豪華なもので、2,000円という値段を聞いて驚いた。「返して来い!」と言った。2,000円という金額が惜しく思えて、そう発してしまった。

 しかし、その風鈴を手に提げてしばらく考えてみると、そのおじさんにも生活が掛かっているわけで、結局は返しには行かずに、我が家の軒先に吊るされることとなった。ガラスでできた江戸風鈴は風流であって、粋でなくてはならない。それなのに「返して来い!」とは何と不粋だったのかと思ったりもした。

 それから何度か夏が来るたびに、軒先に吊るしていたが引越しのタイミングでどこかに行ってしまったのか、捨ててしまったのか。割ってしまったような気がしないでもない。やはりあれはちょっとゴテゴテしすぎていた。粋にシンプルな風鈴の方が江戸風鈴にはお似合いだ。

 今年はまた江戸風鈴を買ってみようか、という気がしている。そして、朝顔まつりでは朝顔を買い、ほおづき市ではほおづきを買って。粋に夏を過ごしてみよう。ちょっと気が早いが、夏が待ち遠しい。

(秀)