第1327話 ■寄席初体験

 ドラマ「タイガー&ドラゴン」で落語がちょっと流行ったみたいで、そのとき私も一度は寄席に足を運んでみようと思って、寄席の出演者を調べてみたが、知らない名前ばかりで二の足を踏んでいた。テレビに出ている咄家なんか、本当にほんの一握りでしかなく、真打という階級にありながらも、世間にはほとんど存在を知られることなく終わってしまう、そんな世界なのだと思う。

 それがようやく、映画「しゃべれども しゃべれども」を見て、知っている、知らないはさておき、実際に寄席に足を運んでみた。それでも昼の部主任(いわゆるトリ)が桂歌丸であることや知っている噺家の名前が確認できたのは、知らない人ばかりよりは楽しめそうに思えた。

 私が出掛けたのは6月最初の月曜日で、この日は「落語の日」ということで、浅草演芸ホールは料金半額であった。昼食を早めに済ませ、開演の10分程前に会場にたどり着くと、100席余りの席は9割近く埋まっていた。思ったよりは小さい感じのホールだった。パッと見、やはり年輩者が多い。一番後ろの列の真ん中に座ると、しばらくして太鼓囃子が鳴り、開演。

 一番最初に出て来たのは、配られたプログラムに書かれていない。前座の若者だった。前座とは一番下の階級で、高座で羽織りを着ることも許されていないので、そう分かった。やはり、話しっぷりはまだまだだった。こんな感じで前座がしばらく続くのかと思ったが、前座はこの一人で、それから後はプログラムにも名前のある羽織りを着た人が出て来た。次の二ツ目という階級になる。

 本来、このような寄席で聞く落語は長いものだと思っていたが、プログラムによると、1時間あたり4人。これは後半の真打と思われる人も同様である。時間の長い演目はこのような寄席の定席ではなく、独演会や一門会などでやるのかもしれない。一人当たり15分ということだが、最初の5分くらいはマクラという前振りに使われるので、演目の正味は10くらいしかない。結構コンパクトだ。

 途中、出演者の順番が入れ替わったりしながら、進んで行く。落語だけではなく、歌謡漫才や手品も出てくる。いずれも時間には正確にオチを付けて引っ込んで行く。この時間調整がうまくできないと怒られるらしいが、実に見事だ。私の仕事でのプレゼンもかくあやかりたいものだ。結局、二ツ目と真打の境目は分からなかった。途中から会場は満員になり、立ち見まで出るほどのにぎわいとなった。

 昼の部だけで、合計17組ほどの出演者が出て来た。夜の部も同じ数の出演者が予定されている。途中、中入りの小休憩があり、そこからは桂米丸、笑福亭鶴光と見慣れた顔が登場し、いよいよトリの桂歌丸の登場である。彼はテレビに出ている姿そのまま。衣装も笑点のときと同じ、薄緑の着物と羽織りだった。このとき、主任にだけ舞台にお茶が用意され、(咄とは全く関係なく、)それに手を付け、すする場面があった。

 こうして約4時間半にわたり、馬鹿笑いするものではないものの、それぞれ非常に楽しめた。入れ替えがないので、そのまま出演者の異なる、夜の部もまた4時間半ほど楽しめたのだが、それはやめて帰ることにした。知らない咄家でも十分楽しめることが分かったのがその日の最大の収穫だった。

(秀)