第1345話 ■裁判傍聴記(3)

 前日に引き続き、裁判傍聴2日目。午前中に2件の裁判を傍聴した。

 最初は新規の覚せい剤事案。被告人の名前が二人、同じ苗字で書かれていた。やがて法廷に現れたのは若い夫婦だった。起訴事実を認めて争わないために、即決裁判で審議が進められた。即日結審して、判決の言い渡し。途中、弁護側の情状証人として、夫の実母が登場した。ともに前科前歴もなく、組織的な裏づけもないということで、検察官は求刑懲役1年6ヶ月で執行猶予付きが相当であることを求め、判決もその通りとなった。驚くことに妻は懐妊中も覚せい剤の吸引を続けていた。

 事件に関係ない傍聴人は私だけだったが、最初の裁判が終わった途端に、傍聴席に多くの人が入ってきた。その数約30名。次は業務上過失致死の継続裁判だった。一人のスーツを着た男性が傍聴席の仕切りの柵の扉から法廷の方に入り、正面後ろの席にひっそり座った。後から気が付いたが、彼が本裁判の被告人だった。保釈されたのか、既に勾留を解かれており、警官に連行されるわけでなく、自ら被告人席に座ったのだった。

 検察官の証人尋問から始まった。証人は被害者の母親だった。既に何度目かの裁判で起訴状の朗読がないため、どのような事件だったのか最初はまったく分からない。途中からテレビドラマを見たようなものだ。それでも次第に事件のアウトラインが分かった。要約すると次のようになる。被害者は当時3歳の男児。被告人は某宅配会社元運転手。被告人が配達車両で被害者をはね、死亡させた。

 検察官は証人にその日の状況を具体的に聞きだす。証人と被害者、それに被害者の兄(当時4歳)がその日家に居て、子どもたちに食事をさせながら、証人は洗顔と洗髪のためにシャワーに入った。そこに被告人が証人宅に荷物の配達に現れ、おそらく被害者の兄が玄関を開けたか、錠が掛かっていなかったのだろう、被告人は受領印を取ることなく、荷物を置いて立ち去り、その間に被害者が玄関から一人外に出た。そして駐車場で被告人運転の車両が被害者をはねた。被告人は次の配達に気を取られていて、被害者をはねたことに気づかず、20メートル引きずった。せめて、受領印のために声を掛けて、自分を待ってくれていれば、事件は起きなかったと証人は言う。

 皆さんはこの事件をどう思うだろうか?。確かに死亡させたのは被告人であるが、そのような小さい子をおいて、短時間であっても、シャワーを浴びていた母親の責任はどうだろうか?。これから先、裁判員制度が実施された際に、被害者側の証言が裁判員の同情を誘い、被告人に不利な判断がされるのではないかと危惧する。約1時間の証人尋問でこの日は閉廷した。この裁判はもうしばらく掛かるだろう。傍聴席の人々は被害者遺族関連と被告人の会社関係者と思われる。

 傍聴記、次回いよいよ完結へ。

(秀)