第1346話 ■裁判傍聴記(4)

 いよいよ裁判所通い3日目。この日も午前中に2件の裁判を傍聴した。最初は違法薬物の裁判。被告人は二人。開廷ぎりぎりに法廷に入ると既に被告人の入場は済んでいた。若い男性二人である。例によって起訴事実を争うことなく、即決裁判にて扱われた。大麻の所持と使用、それにコカインを所持して現行犯逮捕されている。一方の被告人はかつて未青年のときに覚せい剤の使用経験があったが、思ったほどの効用がなかったことと、周りに覚せい剤で身を崩していく友人の姿を見て、覚せい剤だけは絶対やらないことにしたという。もう一方の被告人も覚せい剤だけは絶対にやらないことにしたという。薬は駄目だけど、葉っぱななら良いのか??。大麻は5千円で売られているらしい。

 コカインの方はいつものように外国人売人から大麻を買ったところ、「ケミカル、ケミカル」と言われて渡されたらしい。その直後に逮捕されたため、それが何かを確認することなく、所持していただけとなった。弁護人も検察官もこの白い粉を受け取ったときにどうしようと思ったか尋ねたが、「捨てようと思った」と証言。本当かどうかわからないが、薬はやらないプライドなのだろうか?。求刑懲役1年、それに執行猶予付きが相当との検察官の意見。確かに前日の覚せい剤の事件に比べると、大麻の方は罪が軽い。関係ない傍聴者はまた今回も私だけだった。

 続いての裁判は業務上横領事件。被告人は55歳の男性、バツイチ独身。リフォーム会社に勤めていたときに客からの集金代金のうち、計3回にわたり、250万円を横領着服し、ギャンブルなどに使用したものだった。元々ギャンブルが好きで遊興費が欲しくて横領したのではなく、自己の借金を返済するために手を付け、ギャンブルで増やして帳尻を合わせるつもりだった。けど、世の中そんなに甘くない。ギャンブルでは勝てずに、会社への入金に穴を開けてしまった。

 起訴事実を認め、争う点もないため、即日に判決が出るかと思ったが、判決は次回に持ち越された。求刑は懲役2年。それに対し、弁護人は執行猶予付きの判決を求めた。裁判官は被告人に「刑務所に行く覚悟はできていますか?」と尋ねた。「はい」との返事。その後裁判官は「実刑は免れない、執行猶予は難しい」と言った。被害金額を弁済する具体的なあてがないことと、示談が成立していないことが理由である。裁判官は最初判決は1週間後と言っていたが、それを2週間後に延期した。その間に被害者と示談をして来い、という温情である。もし示談が成立すると執行猶予も出るかも知れない、と私は理解した。

 初犯でありながら、250万円の横領で懲役2年の実刑というのは相当に重い罪である。ここ数日前から報道されている、社会保険庁や市町村での年金の着服のことを思った。刑事告発されればこのような罪に問われるのに、それがかばわれ、うやむやにされることに強い憤りを感じる。

 さて、今回3日にわたる裁判の傍聴だったが、裁判はまさに人生劇場だと思った。裁判員制度導入のためのビデオや説明よりも、実際の裁判を見る方がよほど効果的だと思う。不謹慎と言われるかもしれないが、寄席に行くより面白かった。これがタダなのだから。できればメジャーな東京地裁やさらに上級審の裁判を傍聴して、「異議あり!」なんてやつを見てみたいものだ。

(秀)