第1360話 ■夜の上海

 今日は映画の話題。「夜の上海」というのがタイトル。日中合作映画で日本での配給元は松竹。タイトルが示すとおり、上海を舞台にした話である。しかも、日本映画には珍しい、一夜を対象にした話である。邦画では時間経過が結構経ってしまう映画がほとんどである。

 主演は本木雅弘。カリスマヘアメイクアーティストで、音楽祭出演者のメイク担当として招聘され、上海にやってきた水島を演じている。一方、主演女優はヴィッキー・チャオ演じるリンシーというタクシー運転手。私はアジア系の映画は見ないので、ヴィッキー・チャオがどんな人なのか知らないが、「少林サッカー」に出ていたらしい。中国では大人気のタレントらしい。日本人に例えると、目がパッチリした中越典子といった感じだろうか。

 水島は登りつめた今の状況に何か空虚な満たされない思いを抱いている。恋人でマネージャーの美帆(西田尚美)との中も、分かれ道に差し掛かっていた。一方、リンシーはタクシー運転手として日銭を稼ぐ生活をしている。親はなく、弟と二人暮しをしている。彼女の心の支えは片思いの親友ドンドンとの結婚を夢見ることだった。

 音楽祭会場での仕事が終わった水島は何に誘われるでもなく、財布も何も持たずに一人ふらりと街に出た。裏通りに入ると、二胡を弾いている人がいたりと、大通りの喧騒とは一転してしまう。そして水島は道に迷ってしまった。そんなところに、乱暴な運転のリンシーが現れ、水島を後ろから、はね飛ばしてしまう。リンシーは水島を「送るから」とタクシーに無理やり乗せるがお互い言葉が通じない。リンシーは英語もほとんど話せない。おまけに水島はホテルの名前も覚えていないので、行き先が分からない。

 そんなとき、リンシーの携帯電話が鳴った。片思いのドンドンからである。彼は「明日結婚することになった」と言う。もちろん、リンシーではなく、別の女性とである。リンシーは気が動転し、「おめでとう」の言葉も出てこない。一番の親友で一番分かり合えてる同士と思っていたのに。

 行き先のないタクシーは、夜の上海をひたすら走る。上海のエネルギーを感じる。美しい上海の夜景と、それに映画館では、音が良いので、街の雑踏感がサラウンドで伝わってくる。途中、雨が降り出し、雷が落ちるシーンでは突然なことと大音量でのリアルさに驚いた。

 この映画のテーマは「切なさ」だと思う。ドンドンからの電話を受けたリンシーは、ドンドンに会うために職場である自動車修理工場を訪ねるが、既に彼は帰った後だった。そして、結婚式の衣装合わせをしている二人の姿を遠目に見て、涙を流す。一番の親友で一番分かり合えてる同士と思っていたのに。ただ一言、「好きだ」、「愛してる」と言えなかったばっかりに。彼女の切なさ、よく分かる。

 公開されている映画館も少ないようだが、いずれDVDになって、レンタルも出ることだろう。美しい上海の夜景と切なさに接してみてはいかがだろうか?。

(秀)