第1430話 ■まくら

 私が欠席した会社の飲み会で、私の落語好きがどういうわけだか、私が落語をやっている、と誤って周りに広まっていたらしい。それならさぞや面白いプレゼンでもやろうものだろうが、あいにく私はそんな芸当は身に付けていない。

 さて、話(噺)の始めを「まくら」なんて言うが、これは「頭に付くもの」といった洒落からきている。さしずめ今回のコラムでは私が落語をやっているといった誤解の話がまくらにあたる。落語ではこのまくらから徐々に演目へと振っていくことが多い。そして羽織の紐をほどいて羽織を脱いだのが、これからネタに入りますよ、といった合図だったりする。

 私は毎回このまくらに注目している。まくらの話が面白いかどうかはさておき、客とまずキャッチボールができているのかどうかに関心がある。まくらが面白いからネタも上手いとは限らないが、ネタが上手い人はそれなりにまくらもこなしている。ネタの方は何度も稽古して師匠に見てもらいながら芸として磨いていくのだろうが、まくらについての稽古というのはおそらくないと思う。その人のセンスなんかが直接表現されるのがまくらだ。

 プレゼンでも上手い人になると軽くまくらを振って場を和ませたりする。私はどうもそういうことができず、笑いなどは狙わずにストレートに本題に入ってしまう。固い。落語を見るだけでも何かヒントなどが掴めないかと思ったりするが、そういう効果は実感できていない。見るだけでなく実際にやる立場になって稽古をするのが最も効果的なのだろうが、そもそも私はそんな長い時間の正座ができない。

 お後がよろしいようで。(って、実際の寄席では聞かないけど)

(秀)