第1432話 ■カイロ

 数年前の雪の日の帰り、会社が入居しているビルの1階の飲み屋さんが店の客に使い捨てカイロを配っていた。私達は雪の中、店に立ち寄るようなことはせず、急いで帰ろうとその店の前を横切ったところ、マスターがこの店の常連である我が部長に使い捨てカイロを手渡し、一緒にいた私達にもカイロをくれた。寒い中とても嬉しくて、今でも雪が降るとこの日のことを思い出す。

 カイロと言えば、かつてはベンジンを燃やして使用する白金カイロだった。これを巾着袋に入れ、さらにこれをストッキングに入れて、腰などに巻きつけて使用する。姉がよくやっていた。しかし今では手軽さから、使い捨てカイロがほとんどである。

 世の中に使い捨てカイロが登場したのは、今から30年ほど前のことだと思う。当時1個百円と今考えれば相当高かった。最近はこの使い捨てカイロもだいぶ安くなっている。中には知らないようなメーカーの商品もあるが、品質にさほど差があるわけでもなさそうなので、値段を優先して品選びをするようになった。以前は「ドント、ドント」と商品名を連呼するようなCMもあったが、値段優先で指名買いが減ってしまったのだろうか、最近は使い捨てカイロのCMをとんと見なくなってしまった。

 中学生のときに使い捨てカイロを学校に持って行って、友達に見せると、翌日から使い捨てカイロを数人が持ってくるようになった。中には白金カイロを持ってくる者もいた。その翌日にはさらにその輪は広がり、ことを知った学校は、「許可がなくては持って来てはいけない」と言い出した。こんな心こそカイロで温めるべきだったと思う。

(秀)