第1509話 ■赤い文化住宅の初子

 今回は映画の話題を。「赤い文化住宅の初子」というタイトル。映画館で公開されていたときにちょっと気になる作品だったが、結局映画館で見ることができず、気がついたらレンタルショップにDVDが並んでいるのでそれを借りて、ようやく見ることができた。

 文化住宅という言葉を辞書で調べてみたら、「玄関付きの木造二階建てアパート」とあった。文化という高尚で先進的なイメージの言葉とは裏腹に、今となっては古い安アパートを指す言葉といえる。そのタイトルが示す安アパートに住む貧乏な中学3年生の少女初子が主人公である。中学生ながら中華屋でバイトするが、あえなくクビになる。

 彼女は高校を中退した兄と二人で暮らしている。父は昔、借金を残して蒸発し、母は過労により死んでしまった。唯一の肉親である兄はろくでもない男で、酒と風俗に金をつぎ込んでしまうし、粗暴で勤務先の工場でケンカをしてそこをクビになる。生活費にも手をつけ、支払いが滞って電気を止められてしまう。彼女は高校受験を控えているが、兄の甲斐性もなく、就職を余儀なくされる。私はこれほど薄幸な少女の映画やドラマを見たことがない。(難病ものを除いて)

 この映画のテーマは純愛である。常に彼女を励まし、一緒に同じ高校へ行こうと勉強まで教えてくれる三島という少年に好意を感じ、三島も彼女に好意を持っている。だが、プラトニックだ。彼は高校に進み、彼女は菓子工場に就職をするが、お互いの気持ちは変わらず、将来の結婚を誓い合う。このことが唯一、彼女の心の支えであろう。

 その頃、自分たちを捨てて出て行った父親が、浮浪者となって突然姿を現す。兄と父親はここで激しくぶつかり合い、話は突然予想もできなかった展開を見せる。兄は昔の馴染みを頼って、大阪に出て行くと言い(話の舞台は広島)、仕方なく、初子も一緒について行くことになる。

 これといった見どころがあるわけでもなく、ハラハラドキドキするような要素はない映画だが、そのリアル感に妙な切なさがある。かと言って泣けるわけでもない。願わくば将来、彼女には三島君と一緒になって幸せになって欲しい、そんなことを思う映画だ。作品自体は秀作。

(秀)