第1734話 ■映画館で見る森繁映画

 昨年11月に森繁久彌氏が他界してからしばらく時間が経った。テレビで老いてから出演したドラマの再放送などが流れ、いくつかを見てみたが、どうも痛々しくって冷静に見ることができなかった。やはり私は壮年の頃の社長シリーズや駅前シリーズで見せる彼の姿の印象が強すぎるからだろう。

 そんな中、東銀座にある「銀座シネパトス」で彼への追悼で先月から森繁映画が2本立てで上映されている。私が気が付いたときには既に全体のスケジュールの3分の1が終わっており、多分見たことがないであろう、「駅前番頭」を見逃してしまったのは非常に残念だった。

 プログラムは週の前半と後半で切り替わり、それが約1月半続く。そのほとんどをDVDとしてコンテンツを所有しているのであるが、やはり映画館の大スクリーンで見てみたいと思い、足繁く通っている。実際に映画館で見るのと自宅のテレビで見るのではやはり大きな違いがある。まず第一に集中度が違う。それと周りからも一斉に笑い声が挙がるというのも、同じ場所での一体感が楽しめる。

 例えば、フランキー堺が現れただけでも場内に笑い声が挙がる。三木のり平のくすぐりに、客はそれを見逃すことなく反応して、これまた笑う。自宅で一人で見ていたときにはここまで自分も反応することができていなかった。

 会場にはやはり年配者の姿が多い。40年以上前にリアルタイムで見たであろう年代に違いない。きっと懐かしく、その時代を思い出しながら笑っていることだろう。日本が元気だった頃、日本映画は最盛期だった。死んだ後に何かを残せるというのは素晴らしいことだ。改めて、役者森繁久彌の底力を感じた。

(秀)