第483話 ■斎藤幸子

 指定されたその電話番号に電話を掛けると、電話に出た女性が「斎藤幸子係です」と答えた。「『係』?」。べつに電話に出た彼女は斎藤幸子ではない。きっと彼女の周りに斎藤幸子という名前の女性は存在してしていないと思う。私が電話をしたのは、ひいきの劇団「ラッパ屋」のチケット予約電話だった。「斎藤幸子」というのは芝居のタイトルなのである。姓名判断で最悪の画数を持つ彼女の物語である。この日曜日にその芝居を見て来た。

 ラッパ屋を主宰する鈴木聡氏は、ここ数年テレビドラマの脚本を手掛けるなど、かなり有名になって来た。3つ前のNHKの朝ドラ「あすか」は氏の脚本によるものだった。また、劇団の役者達もテレビに露出する機会が増えた。以前から応援して来てこんなにうれしいことはない。しかし、チケットの入手がますます困難になっていくのには困ったもんだ。最近は友人達と予定を合わせている余裕などなく、さっさとチケットを一枚抑え、一人で出掛ける事にしている。

 芝居の中にはそれぞれのテーマやメッセージが折り込まれているものだが、ラッパ屋は「幸せって何だろう?」、「人生って何だろう?」ということを最近とみに追い求めているようだ。今回またその答えが一つ私の胸にも届いた。誰もがきゅうきゅうとして、ビル・ゲイツのような金持ちや勝利者を目指す必要はなく、どこかに行けば幸せが待っているわけでもない。もちろん、占いや運命なんかもない。まだ見ぬ幸せを追い求めているのも幸せだし、「実はこんなものかもしれない」と身近な幸せに気づいてしまったこともまた幸せだと思う。単に面白いだけでなく、こんなことまで気付かしてくれる、こんな芝居を見られることを幸せと感じる、そんな幸せも自分にはOK、有りだと思う。

(秀)