第502話 ■ラブ・レター

 「『鉄道員』も良いけど、『ラブ・レター』も良いなあ」。「何を今頃!?」と言われてしまいそうだが、浅田次郎氏の直木賞受賞作品「鉄道員」を読んだのはつい最近のこと。直木賞も取って、映画化もされてと、何かと話題の多い作品であるが、文庫本になってようやく手にして(買ったのは文庫本になった直後)読んでみた。「ラブ・レター」というのは、同じ本の次編に収められている短編小説のことである。

 浅田次郎氏の作品はかねてから好んで読んでいた。しかし、いずれも文庫本で、である。別に金をケチっているつもりはなく、ハードカバーと文庫本が同時に店先に並んでいたら、例え文庫本の方が高かったとしても迷わずそれを買い求める。ハードカバーを電車の中で読むのは持ち歩くのも面倒だし、立ったまま読むには結構手が疲れる。

 実は文庫で読む前に、「鉄道員」と「ラブ・レター」は漫画になっており、まずそれを読んだ。そしてその後に、この2つは映画になっているのでそれをビデオで見た。そして仕上げとして原作を文庫本で読んでみた。漫画は原作にとても忠実な描写がされていた。常々、「原作を超える映画はない」と思っているが、今回事前に漫画や映画を見ていたことは原作を楽しむ上で非常に有効だった。

 「『鉄道員』も良いけど、『ラブ・レター』も良いなあ」。私としては「鉄道員」も切なかったが、次編の「ラブ・レター」の方が余計に切なかった。偽装結婚した一度しか会ったことのない、しかし戸籍上は自分の妻である中国人女性が死んだことを知らされたことで話が始まる。映画のクライマックスシーンで主人公の吾郎(中井貴一)が彼女の書いた手紙を読むシーンが出てくる。もちろん、彼女はもうこの世にはいない。

 ドラマや映画でよく使用する手法であるが、このラブレターを本人が読むスタイルで紹介される。たどたどしい日本語で、結婚への感謝を述べ、自分を吾郎さんのお墓に入れて欲しいと頼む。電車の中で文庫の文字を追いながら、映画でのシーンが彼女の声とともによみがえる。涙腺が緩んでしまい、ふと顔を上げると、窓ガラスに泣きそうになった自分の顔が映っていた。

(秀)