第508話 ■かくれんぼと缶蹴り
- 2001.05.18
- コラム
私達が遊んだ、かくれんぼのルールというのは穏やかなものだった。鬼は電信柱なりのポイントをベースに隠れた子を探し回り、見つけたときには「○○君、けったい(語源不明。『見ーつけた』と同義であることは確か)」と言って、そのポイントにタッチすれば良い。一方、隠れていた方は、鬼の隙を見て、そのポイントにタッチすれば良い。そして、一通り隠れていた子が全員出てくると、見つかった者達だけでじゃんけんをし、次の鬼を決めていた。要は対鬼との個人戦である。
ところが、缶蹴りとなると、これは鬼一人に対し、隠れた子全員との団体戦となる。既に見つかってしまっている子も、残りの誰かが鬼の隙を見て缶を蹴り飛ばせば一斉に釈放される。かくれんぼに同様の「一斉釈放」のルールを用いるケースもあるだろう。鬼は全員を見つけない限り、永遠に鬼をやり続けなければならない。見つけた場合はかくれんぼ同様に「○○君、けったい」と言うルールだったが、隠れていた子が一斉に何人も現れ、鬼がこの台詞を言い終わる間に、誰かが缶を蹴り飛ばすという作戦をよく利用した。
缶が蹴り飛ばされた瞬間に時間はスローモーションに変わり、缶はゆっくりと飛んでいく(気がした)。やがて缶が弧を描いて地面に達した時点に静寂が破れ、「ワーッ」と一斉に子供達が再び隠れ始める。鬼のシンボルである缶を蹴り飛ばす動作も、その瞬間に今まで捕まっていた子が一斉に蜘蛛の子を散らしたように逃げ去る様子も、鬼にとっては悲しさをより増加させる。本当の意味での鬼は缶を蹴った子かもしれない。
(秀)
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