第550話 ■秘密のデート(5)

(初の短編小説に挑戦。5話完結。その最終回)

 結局、彼女の消息は掴めないまま、その年の夏は終わってしまった。

 彼女について知っていること言えば、携帯の番号とメールアドレス。それに、「山本江利子」という名前だけでしかない。探偵を使って調べれば探し出せないこともないと思ったが、彼女が突然消えたことから彼女の意を汲んで深追いするのはやめた。

 そして、あの日のことを毎日思い出すことがない程度に時間が経った時、彼女の姿をテレビで見掛けた。名前は違っていたし、一度っきりしか会っていないが、あの顔は彼女に間違いない。

 明石家さんまが大勢の素人女性を相手に、彼女達の恋愛経験などを聞き出し、笑いものにする深夜番組である。

 「『秘密のデート』不倫ドライブで交通事故」。
 画面にこんな文字が出て、彼女があの日のことを面白おかしく話している。さんまは歯をむき出しにして、「最低な男やなー」と突っ込む。

 妻は彼女の話に、まるで他人事のように、大きな口を開けて笑っている。

− (完) −
(もちろん、フィクション)

(秀)