第578話 ■西郷どん

 西郷どんは地元では今でも英雄らしい。同郷の大久保利通の比ではないようだ。同じ職場の薩摩おごじょに教えてもらった。中学生の時に修学旅行で鹿児島に行ったが、観光地の土産物屋で西郷さんの銅像のミニチュアを買ってしまったことがある。通常は2,000円ぐらいのものが500円と言われて得した気分であったが、そもそも2,000円の設定自体が怪しい。せめてもの救いは、その私が持ち帰ったミニチュア銅像を旅行の餞別をくれた父の友人にあげたことで、とりあえず、恥ずかしい証拠品は私の身近にはない。

 鹿児島の西郷さんの銅像は軍服を着て険しい表情をしているが、上野の西郷さんは着物姿に犬を連れて、幾分穏和な顔つきである。しかし、犬の手綱を引いたもう一方の手(左手)には日本刀を握っている。散歩時も日本刀を放せないほど命を狙われていたのだろうか?。実は散歩ではなく、ウサギ狩りに行く姿なのらしい。あの上野の森に、着物姿とは何とも不似合いな気がしてならない。まあ、軍服よりは「西郷どん」と呼ぶにふさわしい格好ではあるが。しかし、あの姿は本人に似ていない、と除幕式の時に未亡人が言ったらしい。

 さて、もう随分昔の話(20年くらい前か?)になるが、上野の西郷さんの銅像の一部が破損して修復されたことがある。日本刀の紐の部分が欠けてしまっていて、それを直したのだが、その前にあるテレビ番組が上野で「銅像の一部が壊れているらしいのですが、どこだか分かりますか?」というインタビューをやっていた。あるおばさんにそう尋ねると、そのおばさんは「チョンマゲ」と答えた。次のシーンでカメラは西郷さんの顔を映しだしたが、その頭上には鳩が一羽ちょうどいい形でとまっていた。

(秀)