第619話 ■進水式

 私の小学校低学年のときの遊び相手は、風呂屋の裏に住む同学年のT君、それに食料品店の息子で、一つ年下のK君というのが主なメンツだった。このK君は当時、家業の調子も良く、いろいろなおもちゃを買ってもらっていた。タイガーマスクの人形はもちろん、悪役レスラーの人形も五体くらい持っていたし、リングも持っていた。ロボコンの超合金はもちろん、ガンツ先生にロボワル、ロボプーの超合金まで持っていた。

 そんな彼がある日、モーターボートのプラモデルを買った。モーターボートレースに出て来るあの形のものであった。子供なりには50センチくらいの大きさだったような気がするが、今となって冷静に振り返っても30センチはあったろう。もちろん、モーターで動く仕掛けになっている。プラモと言えば、車の御時世にモーターボートというのが何とも粋である。

 さすがにちょっと作るのが難しく、K君の隣に住む三歳年上のM君が手伝ってくれることになった。お陰で順調に仕上がり、いよいよ進水式。あいにく皆の家には池などない。しょうがないのですぐ側の川にした。川幅約10メートル。ラジコン操作ではないため、呼び戻すために糸を付けての着水である。心地好いモーターの音とともに、小さな波を立てながら、ボートは岸を離れ進んだ。

 そんなことを何度か繰り返す内に、ボートが川面に浮かんだゴミに引っ掛かってしまった。糸を引けど、動かない。こうなると、石を投げ波を起こしてかわすしかない。石を投げるがなかなかうまくいかない。そこでM君が少々大きな石を投げた。ところがその石はモーターボートにみごと命中。ブクブクと泡を出しながら沈んでしまった。あの泡ブクは中に水が入って、空気が押し出されたサインに違いない。頼みの糸も引いた途端に切れてしまった。

(秀)