第625話 ■マジシャン

 会社の同僚にマジシャンがいる。小学生のときからと言うからには、キャリア約20年と言ったところか?。まさに彼の手さばきはプロ並。唯一の弱点は舞台度胸が今いちないところ。ただでさえ多くの人前だと緊張する、と言っているが、会社の飲み会で取締役などの前での披露となると、手が震えていたりする。まあ、その程度で彼がミスることはないけど。

 手品の話をコラムで表現するというのは無謀かもしれないが、是非伝えたい。先日はこんな手品を披露してくれた。トランプをシャッフルし、二人の人にカードを一枚ずつ引かせる。引いたカードは誰も見ない状態で当座伏せておく。「今2枚のカードを引いてもらいましたけど、それは同じマークのカードです。そして、ここに使用していないカードが一枚あるのですが」、と言ってトランプのケースに残っていた一枚の伏せられたカードを取り出す。「この(トランプケースから出した)カードはあらかじめ選んでおきました。このカードはさっき抜いてもらった2枚のカードと同じマークで、数字はその2枚のカードの数字を足したものです」。

 彼の予言を聞いて、会場が一瞬ざわめく。中から、「でかい数同士だったらどうすんだ?」という声も聞こえる。「それでは先程引いてもらったカードを見せて下さい」と言われ、先程の二人がカードをめくって示すと、それは「ハートの7」と「ハートの8」だった。さっき以上に会場がざわつく。笑い声も聞こえる。今度ばかりは失敗したと思った人も多かったはず。

 ここで彼も「やばー」とでも、困った顔のひとつでもしてくれれば良いものの、彼はにやにやと余裕の顔をしている。満を持して彼が選んでおいたカードをめくると、そこには「ハートの15」と書かれていた。爆笑とともに、会場は拍手で包まれた。

(秀)