第676話 ■思い出し笑い

 会議中に突然笑いがこみあげて来るときがある。こらえるのに一苦労。別に面白い話や失笑すべきオヤジギャグが登場したわけでもない。思い出し笑いと言うやつだ。きっかけは会議室に運び込まれてきたコーヒー。会社なんかによくある、オフィスコーヒーというやつだ。プラスティックのカップフォルダーに薄いプラスチックか紙のカップをセットして使用する。カップのふちにはプラスチックのマドラーが挟んである。

 「コーヒーを飲むと決まって目が痛くなるんです」。ある男が眼科医を訪ねた。一通り、診察を終えたが、異常らしいものはみつからない。「どういう感じで痛いんですか?」、「必ずそうなのですか?」。いろいろと問診の結果、たまたまあったオフィスコーヒーの環境を使い、その病院で、同じような環境をシミュレーションしてみることにした。

 その男はマドラーでコーヒーをかき回した後、マドラーをカップの右に挟んで、フォルダーを右手に持って飲むそぶりをやって見せた。途端に先生が笑い出した。「痛いのはここですか?」。「そうです」。それは丁度マドラーが下瞼を押さえているところだった。マドラーが当たって痛いということだった。

 聞いた話で、信憑性は定かでない。しかし、実際にあのマドラーは煩わしいときがある。正面の向かいに座った人がカップに手を掛けた。ゆっくりとマドラーを廻し、手を止めた。そしてカップを持ち上げ、傾ける動作を見ながら、私はさらに笑いをこらえる戦いをしている。

(秀)