第691話 ■修学旅行「山猫」事件

 インターネットなどでのIDやパスワードといったセキュリティを考えた場合、要はこれらは一種の合言葉である。お互いであらかじめ取り決めていた言葉で認証するか否かを決めるところなんか、忠臣蔵でのあの合言葉を思い出す。

 「山」に対して「川」。おい、おい、あまりにもイージーだろう。映画などで見る限り、彼らがこれほどイージーな合言葉を真顔で取り決めている。「山」という言葉で「川」という言葉は簡単に連想できてしまう。これは忠臣蔵の予備知識で既に我々の意識の中に刷り込まれてしまっているからそう思っているだけだろうか?。

 さてさて、中学校の修学旅行の時の話。8人ぐらいずつの部屋割りだったと思うが、いざ部屋に入った後、しばらくしていろいろと別の班の奴らがやってきて、騒いで散らかして、そして食い物を持ち去る。おまけにこんなことをするのは、だいたいうるさい奴と決まっていて煩わしい。そこで我々の班は部屋の平穏を保つために、部屋に鍵を掛け、合言葉によって他の班の連中を自分たちの部屋からシャットアウトすることに決めた。

 そのときの合言葉が「山」に対して「猫」。この巧みな引っ掛けは有効で、「山」、「川」と言う奴らをことごとく排除した。しかし、部屋を訪ねて来る奴は後を絶たない。そしてまた部屋のドアをノックする者あり。「山」、「川」。何度も何度も面白いくらいに引っ掛かってくるのがおかしくて、その度ごとに彼らに対する我々の罵声の声もでかくなっていった。「バッカヤロー。誰だよ」。引っ掛かったバカ面を見てやろうと部屋のドアを開けたところには引率の体育教師が立っていた。その後の顛末は皆さんの想像に任せる。

(秀)