第692話 ■通貨偽造の罪
世の中、偽物で溢れている。牛もブランド品も、ついでにコラムニストも。つい先日も一万円の偽札騒ぎが起きたが、私はそれ以上に自販機を騙した千円札の偽造事件の方に注目したい。最近でも新聞報道によると、「東京都文京区で(2月)1日までに偽千円札18枚が見つかり、警視庁本富士署が通貨偽造、同行使の疑いで捜査している」、「湯島3丁目のビル敷地内の5台のたばこ自動販売機から見つかった」、「見つかった偽札は、やや黒っぽく透かしがない。印刷が不鮮明で文字が二重に見えるものもあり、同署はカラーコピーしたものとみている」とある。
インターネットで検索してみると、去年の夏から同種の偽札事件が関西近辺などで起きていて、全国で自動販売機の中から発見された千円札は千枚を超えている。これらの事件の背景はマニア系の雑誌にその作り方が紹介されていたことのようだ。自販機に内蔵された紙幣判別機は、「磁気」を真偽の判断材料の一つにしており、磁気を帯びたインクを使って印刷されたり、コピーの際に付着するトナー(黒い粉)が磁気を帯びていることを悪用したもののようだ。自動販売機のメーカー社内でさえ、通貨判別ロジック(チェック箇所、方法)に関して知る者は少ないはずなのに。恐るべき、マニア雑誌。
一般に偽造通貨というものは見た目をそっくりにして、相手を騙し、金品を不正に取得することを目的としている(ことだろう)。しかし、法律学的には、「交換媒介としての取引手段である通貨に対する公衆の信用を侵害する犯罪」として位置付けられている。そのことで当事者が不正に利益を得ることではなく、政府の信用を失墜させることを重要視しているところに注目する必要がある。刑法第148条も「通貨偽造及び行使等」として、このことに対し、「無期または3年以上の懲役」を課すことにしている。
「通貨偽造及び行使等」の罪はあくまでも人間を対象に作られたものである。偽造に関して、この場合の争点はその偽造通貨がどれほど精巧にできていたかにあり、もちろんうまくできているほど悪質と判断され、量刑も重くなる。今回の例は印刷が不鮮明で、誰が見ても偽造紙幣と判断できるほど稚拙であるので、通貨偽造としてはレベルが低い。これまでの例でいけば、偽造の精巧さは人が見て誤認する度合いが基準となって測られていた。ところが今後もし、白紙の紙で誰も通貨と誤認しないような紙切れがお札として自動販売機で使えたとなると、ことは複雑であろう。行使しないと偽札かどうかも分からない偽札をどう裁くのか?。偽札騒ぎのニュースに接し、こんなことの方に関心が向いてしまっている。
(秀)
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