第767話 ■ポケットメイト

 普段、学校におもちゃを持って行ってはいけないことになっていたが、小学校も高学年になるとこっそり隠し持って行ったことがあるのは私だけではなかろう。コマにメンコ、ヨーヨー、けん玉、水風船。それに水鉄砲。皆で水鉄砲での戦争ごっこをやるはずが、その話が先生に洩れたらしく、その日の登校直後、水鉄砲は没収の憂き目にあった。次々とダンボール箱に集められる水鉄砲の中で私のが最もでかかった。鉄砲ではなく、機関銃タイプだったのだから。

 まあ、禁止されているとは言え、このくらいの軽微の違反ぐらいは世間様に迷惑を掛ける訳でもなく、先生も結構寛大であった。そんな中、唯一先生公認でおもちゃを持ってきても良い日があった。それは雨の日だ。外で遊べないからと、トランプや本、小さなゲーム類の持込みがこの日に限っては許可された。梅雨ともなると、それこそ連日のことになる。

 当時はまだ、ゲームウォッチも出る前で、携帯できる電子系のゲームなどまだなかった。そのため、ゲームもアナログである。その1つのタイプは将棋やオセロ、ダイヤモンドゲームなど、いわゆるボードゲームをコンパクトに携帯可能にしたもの。そしてもう1つのタイプがポケットメイトを典型とした、小型ゲームである。

 ポケットメイトとはトミーが発売した、手の平サイズの小型ゲームである。価格は500円前後だったと思う。おもちゃ屋などでは一角を構え、シリーズの商品が並べられていた。スマートボールやボールを転がす立体迷路、野球、占いマシーンなど、その数は数十種類にのぼったと記憶している。一頃これが流行り、雨の日、学校に持っていくには最適なおもちゃとして重宝された。私はアレンジボールを持っていた。

 価格が安価だったのが良かったと思う。もし今、かつてのように「雨の日はおもちゃを学校に持って行っても良い」となると、ゲームボーイや遊戯王カード、それにベイブレードが持ち込まれること間違いなし。女の子は電子手帳玩具か?。その影響で、「買って、買って」とせがまれる親が学校に怒鳴り込むことになるだろう。

(秀)