第775話 ■真空管

 かつてのテレビは増幅回路として、真空管を積んでいた。それ以前のラジオもそうだった。最初の頃のカラーテレビも真空管式であったはず。スイッチを点けてもなかなか像が現れてこない。音が先に聞こえ、しばらくすると、ぼーっとフォーカスの合っていない映像や色が滲んだような映像が現れ、真空管が温まるにつれて次第にその像はクリアになり、色の滲みもおさまってくる。一方消すときは、ガチョーンといった感じでブラウン管の中央に丸い光の点を残しながら消えていく。

 やがて真空管を使った増幅回路はトランジスタに変わり、テレビの映像も比較的早くつくようになった。何も早く映像が出るのはこのトランジスタのお陰だけではない。この頃からテレビはスタンバイ状態で、待機電力を消費するようになった。真空管でこれをやると、部屋は暑いし、真空管の寿命もすぐにきて実用的でなかったと思われる。

 今でも真空管を使った機器はアンプなどでマニアに重宝されている。真空管ではなく、チューブと彼らは呼ぶ。トランジスタに比べると、温かみのある音が出る。もちろん本当に良い音が出るには、スイッチを入れてから十分にチューブが温まるまで待たねばならない。真空管には寿命があり、それを消耗部品として交換することで、その機器本体の品質を維持する。ただ、次第に生産されなくなる管があったり、地方ではもはや入手そのものが難しいかもしれない。

 秋葉原に行くと今でも真空管を売っている店がある。JRのガード下にあるその一角は電気のパーツだけを売る専門店が密集している。駅の売店のごとく、一間ほどの間口になんと、ある店はスイッチだけ、またある店はツマミだけ、抵抗だけを売っている店といった感じで商品ごとにそれぞれの店が並んでいる。真空管の専門店もその中にあり、積み上げられた真空管のパッケージの箱に囲まれて、おばさんがひっそりと店番をしている。一日にどれほどの客が来るのであろうか?。壊れた真空管や型番を書いたメモをこのおばさんに渡せば、即座にその真空管を出してくれるのだろう。しかし、できれば真空管らしく、そのおばさんの動きはゆっくりしたものでお願いしたい。

(秀)