第786話 ■ようかいけむり

 私の記憶の中では、「おばけけむり」だと思っていたが、現物を見て「ようかいけむり」というのが正しかったことを確認した。ボキャブラリーが増えるにつれ、細部において記憶が曖昧になってしまう例である。ということは芸能人の名前なんかを適当に(あるときはとんでもなく)記憶してしまうオヤジのように「いい加減記憶」層への仲間入りも近いのか?。頭を振って否定する。記憶に依存するところが大きいこの秀コラム。そう易々といい加減記憶層に足を踏み入れるわけにはいかない。そしてそれまでに記憶を掘り起こし、出来るだけ多くのことを書き記しておかねばならない。

 肝心の「ようかいけむり」は当時駄菓子屋で1枚10円で売られていた。袋から取り出すと、そこにはおどろおどろしい、「ようかいけむり」のネーミングの由縁であろう、妖怪の絵が書かれている。その紙の裏面に貼られているフィルムを剥がし、紙に親指と人差し指を擦りつける。その後、べたべたしたこの両指をくっつけては放す動作を高速に繰り返す。すると、その指から煙(らしく見える?もの)が出て来る。火のないところに煙は立たぬ。要は煙のように見えるゴミでしかない。成分は松脂か何かであろう。

 煙の出が悪くなると、またフィルムを剥がして紙に指を擦りつける。ただそれだけの遊び。遊んだ後は指が真っ黒になっている。そのべたべた感で余計にゴミまで吸い寄せているのか、それとも最初っから手が汚れていたのか。こんな子供騙しの玩具をよくもまあ、昔は買ったものだ。そして今も懐かしさのせいで食指が動いてしまった。

 今私の手許に「ようかいけむり」(未使用)がある。今でも生産、販売は続けられていたのだ。値段は120円。「高くなったな~」と思いながら買い求めたら、そのビニール袋の中には5枚入っていた。1枚は息子にあげた。そもそも買い求めたのは誰かに「あったら買って来てくれ」と頼まれていたからだ。しかし、それが誰に頼まれたのか思い出せない。「やばい!、記憶障害か?」。というわけで、ちゃんと買ってあるので、私に購入を依頼していた人は連絡をして欲しい。本人限定。偽者、便乗お断り(けど、面白いのでちょっとは期待)。

(秀)