第834話 ■アメリカンクラッカー

 おそらく30年くらい前のことだと思う。私が買ったのは駄菓子屋だったのでおそらくそれは偽物だったに違いない。しかし、そんなことは遊ぶ上では特に問題にならない。ピンポン玉くらいのプラスチックの玉が2個。それがそれぞれ20センチほどの紐に吊るされていて、それを束ねた部分に玉と同じ素材のプラスチックの板が取っ手として付けられている。それだけの極めて単純な構造。当時のモラルとしては偽物が出て当然の単純さである。

 どうして私がそれを買ったのかはよく覚えていない。取っ手を握って数回上下させて揺らし、ぶつかり合う玉の勢いが増して、下だけでなく上でもぶつかり合うことで、カチカチカチカチと連発して音を出す。ただそれだけを楽しむおもちゃである。しかし当時幼かった自分はこれが満足にできず、弱々しく下のほうでカチカチカチカチとぶつかっているだけでしかなかった。しかし世間でのブームは凄く、「いなかっぺ大将」での涙がカチカチと揺れてぶつかり合うシーンはこの影響に他ならない。

 私がようやく上下で玉をぶつけて遊べるようになった頃には既にブームは終わってしまっていた。このブームは遊んでいるうちに紐が切れてケガ人が続出したという形で終息していったと思う。本物でもそうだったのか、粗悪な偽物がそうだったのか分からないが、まあ、良質な本物にしろ次第に紐は老朽化し磨耗していく部分もあるので、いずれはそれでケガをする子供が出たり、飛んでいった玉が物にぶちあたり、それを壊す事故が起きるのは間違いなかっただろう。安全性を考えれば、今なら到底世には出ないおもちゃだったと言える。

(秀)