第878話 ■年間購読予約特典

 小学生生活もそろそろ終わりという頃に、中学生向け学習雑誌のダイレクトメールが送られてきた。「中一時代」や「中一コース」といったそれである。そのダイレクトメールは超ダイジェストなサンプル冊子で、「(本誌は)こんな雑誌です」という内容と「中学校生活はこんな感じです」という内容で構成されていたと思う。そして冊子の最後の方に年間予約をしてくれた人への特典が紹介されていた。

 だいたい同じ時期に各家庭に郵送されてくるので、クラスで何人かはそれを学校に持って来ている。「ああ、それうちにも来た」って感じの会話になる。ところがどういうわけか、「中一時代」のダイレクトメールが私宛にはついに届かなかった。子供心にとても悔しかった。もちろんその出版社が嫌いになり、あてつけにライバル誌の「中一コース」を年間購読予約してやった。

 その年の年間購読予約特典は両誌とも万年筆だった。「時代」が王貞治氏の、「コース」がピンクレディーのそれぞれサイン入り。とりあえず親の了解を取りつけ、必要事項を申込書に書き込んでそれをいつも行きつけの近くにある小さな本屋に持って行った。日中はおばあさんが店番をしているが、このときはもう夕方を過ぎて、おばさんが店にいた。いつものおばあさんだったら「年間購読予約」なんて気の利いたシステムを分かってもらえず、出直すことになったかもしれない。おばさんは申込書に店のスタンプ印を押し、引き換えにピンクレディーのサイン入り万年筆を私にくれた。この万年筆を取り出したカウンター横のガラスケースの中には憎っくき「時代」の万年筆も置かれていた。

 その店にもよるだろうが、「年間購読予約」といっても、毎月、私の分の本が取り置きされているわけでもなく、発売日に店の陳列分から一冊持って買い求めるのはいつも通りだった。厳密な配布基準や付け合せの確認もないまま、単なる販促材だったのかもしれない。その後、両誌のイメージキャラクターはアイドルを中心に数年ごとに交代し、特典グッズも変化していった。ラジオやカメラと、ちょっと高価に思えるが、実はチープであることは変わらない。もらった万年筆もインクが詰まってすぐに使い物にならなくなった。

 お気づきかと思うが、「中○時代」も「中○コース」も(蛇足だが、「高○時代」も「高○コース」も)既に今は販売されていない。

(秀)