第899話 ■名札

 我が家は目覚し時計も電波時計である。6時丁度に閃光を放ちながら、電子音を発する。決して気持ち良い音色ではないが、寸分の狂いもなく、鳴動してくれることが精神衛生上うれしい。少なくとも私には。その音で妻が目を覚まし、私はもうしばらく布団の中でうとうとしたまま。

 布団を抜け出し、寒いので綿入れ半纏に袖を通し、そして洗面所に行く。歯磨きと洗面を終えて、顔を拭きながら洗濯機の横のタオルの山の上に、長男の学校の名札を発見した。着替えを洗濯かごに入れる際に、彼が外してそこに置いたままなのか、妻が洗濯物を洗濯機に入れるタイミングでそれに気がついて外したものかはわからないが、しばしばこの位置に名札が置いてあるのを朝目にする。

 ピンを外し、綿入れ半纏の左胸の位置にそれを付けた。正面の洗面台の鏡には小学校の名札の付いた綿入れ半纏を着たバカな男の姿がある。そのままリビングに戻る。「気づいてくれ!、気づいてくれ!」。念じる。長男と目が合うや、「あっ!、僕の名札だ。返せ、返せ」。こんなおとぼけが私は大好きだ。

(秀)