第902話 ■お見合い道場(2)

 現れたのは思った通りの男だった。写真や釣書も事前に届いてはいるものの、そんなもの見るまでもない。だいたいここに現れる男性は決まったパターンが多い。先週来た男性は母親と一緒に来た。
 もちろん男性ばかりではなく、女性も来るけど、ここに来る男性にここに来る女性を紹介することだけはしないことにしている。

 「さあ、どうぞこちらへ。田所秀明さんね」。
 まず視線を合わせてみて、その反応で相手の心の中がだいたい読める。ここにやって来る男性のほとんどは、じっとこっちを向いていることなどできない。すぐに視線を下に落としてしまう。
 「ところで田所さんはこれまでに何回ぐらいお見合いを経験なさいましたか?」。
 「その中で実際にあなたが気に入った方が、何人ぐらいいらっしゃいましたか?」。
 「ああ、そうですか?。その中で何件か、お見合いの後にもお会いするなど、お付き合いに至ったケースはございましたか?」。
 「それはなかったです」。

 「この道場では見合いでの心構えなどを習得していただきます。しかし、いくらお作法や会話術を身に付けたところで、その場はしのげても結婚に至るまでそれを持続させることは一筋縄ではいきません」。
 「そこでまず、ちょっとロールプレイングをやってみましょうか?。」
 手を叩き合図をして、相手として3人の女性を招き入れた。この中に少なくとも一人はこの人の好みの女性がいるでしょう。
 「さあ、これより順にこちらの女性3人とそれぞれお見合いのロールプレイングをやってもらいます。3人の中に第一印象だけで気に入った方はいましたか?。第一印象は大事です。相手もあなたに対して何らかの印象を抱くわけですが、それがお見合いが成功するかどうかの半分を決めてしまうと言っても過言でもありません」。

 いつものようにこの台詞を吐くと、聞いた方は決まって姿勢を正す。そして、鏡でも見ているかのように改まった顔をする。
 「しかしお互いは既にお相手の写真を見ていますから、全くの第一印象というわけではありません。写真を見たときの印象と実物を見たときの印象の差があまりなければ良いですが、実際には写真写りの良し悪しや、ねえ、いろいろとお直しなんてこともありますし。それと女性は服装や髪型で雰囲気が随分違うものです。まあ、今日はそのあたりは抜きにして、会話術の練習といった感じで、お話をしてみてください。じゃあ最初は薫子さんお願いします」。

<つづく>

– – この話はフィクションです。- –

(秀)