第903話 ■お見合い道場(3)

 これまでの見合い回数を聞かれたときには「10回ぐらい」と答えた。しかしそれは3年前までのこと。10回までは確かに数えていた。ところがその後は数えるのさえ面倒になってしまった。正式な見合いではなく、パーティ形式となると、ここのところ毎月のように参加している。

 そして見合いも最初の頃はまあ半分ぐらいは「いいなあ」と思う人だった。しかし次第にこちらも切羽詰ってくると、相手の方も同じようにそんな人ばかりになってきた。それでもこっちの気持ちにもあせりが出てくるので、「いいなあ」の基準も下がってしまう。見合いの回数を10回と答えてしまったので、半分ぐらいということで、「5人」と答えておこう。

 見合いに比べると、パーティーの方が確かに理想の相手に出会う可能性は高い。しかし、そんな女性とは実際には話さえできない。「そんな女性はサクラだ」、という噂もまんざらではないように思えてきた。パーティへの参加もその費用を考えるとサクラを眺めて喜んでばかりではいられない。そろそろ潮時か。おまけにこの歳となっては、医師・弁護士・青年実業家などでないと参加できないパーティが増えてきた。確かに相手の条件もかなり良いらしい。

 師範と呼ばれているその女性の合図で、3人の女性が部屋に入ってきた。それに続いて旅館の番頭のような半纏を着た男達が座卓を運び込み、即座にお見合いの席が完成した。多少実践訓練みたいなことをやるだろう、と思って来ていたが、この手際には面食らった。それにしてもこのだだっ広い和室の中央にこじんまりと誂えた即席の座はやはり異様だ。おまけに別に二人の女性が傍に控えていて、さらに遠巻きに師範とやらが睨みを利かしている。これではかつて、先方が一家総出で見合いの席に現れたときよりやりにくい。

 師範が席を立って、3人の女性にそれぞれ歩み寄り、何かを耳打ちした。最初の薫子という女性は良い所のお嬢様風だった。趣味と休日の過ごし方、それに最近見た映画についてやり取りをした。難無くこなせたと思うが、意気投合という雰囲気ではない。多少会話が噛み合わないところがある。世に言う、「不思議ちゃん」の部類だろう。それとも私の話がよっぽどつまらなかったのだろうか?。笑い方もぎこちない。

 二人目は桜子という、実に派手派手しい若い女性だった。ルックスは良い。おまけにバストもでかくて、タレント事務所のイエローキャブに似た感じのタレントがいるようなそんな感じだ。しかし、
「年収はいくらですか?」。
「今までに何人の女性と付き合ってきましたか?」。
「親との同居は反対です」、なんてことを次々にずけずけと言う。たわわな胸で雑誌やブラウン管で微笑んでくれる分には良いだろうが、一緒に生活するには耐えられない。その名の通り「サクラ」だと判断した。

 最後の女性は小百合と名乗った。前の二人に比べると若干歳も高く、落ち着いている。私との歳のバランスも一番つりあっているようだ。これまでの二人は当て馬だったのか?。
 「私は今の仕事が面白いですし、責任のある仕事を任されています。ですから、結婚後も仕事を続けたいと思います。それに歳のこともありますので、子供を産むつもりはありません」。
 3人の中では一番私の理想に近いかもしれない。しかし、孫の顔を見ることを楽しみにしている自分の親達のことを考えるとそうもいかない。今までもこのパターンでダメになったことがあった。しかし、次の瞬間、目の前の女性は自分の本当の見合い相手ではなく、単なる訓練のお相手と冷静に思い直した途端に気は楽になったが、今度はこんな訓練が虚しく思えてきた。

<つづく>

– – この話はフィクションです。- –

(秀)