第932話 ■「月刊 自家用車」

<前話からのつづき>

 翌日は日曜日。車の下取り査定は月内のみ有効で、月が改まると査定はまたやり直しとなり、もちろんのこと、その額は下がる。敵の決算を控えた3月で勝負をするのが最も効果的であることは確かであるが、あと2ヶ月待って、その査定の下がった分を値引きで取り返すのはなかなか難しい話だろう。そこで、月内の短期決戦で臨むことを決め、その日はまず本屋に向かった。

 前日見積りを貰った車でほぼ決まりであるが、値引きの金額が妥当なのか?、そもそもこの車の評価はどうなのか?、競合させるにはどんな車種が候補か、などを知るために「月刊 自家用車」という雑誌を買った。その本に紹介されていた、目標としている車の値引き額は22万円とある。前日までに既に25万円の回答を引き出しているので及第点ではあるが、下取り車の評価を再検討してもらえば、もうちょっといけそうな気もする。

 そして競合情報では、他社の車ではなく、同じトヨタでありながら、別ディーラーで販売している兄弟車同士が良いと書かれていた。その兄弟車の存在は前日にも気づいていたが、わざわざ見に行く気もなく、合い見積りを取ってぶつけるつもりもなかった。しかし、前日の交渉で含みを持たせた先方の担当者と最後の詰めを行うに当たって、一応、その兄弟車の情報も仕入れておこうと、作戦変更。別のディーラーに立ち寄って、その足で昨日のディーラーにでも行って今日中に決めてしまおうと、出発した。

 兄弟車(ここではN車としておこう)は購入候補車(ここではV車としておこう)と寸分違わぬボディサイズで、フロントの顔が違う程度の差しかない。実際の売れ行きではかなりの差でN車の方が売れているらしい。V車の一律20万円値引きもうなづける。実際にN車の説明を聞くと、装備の点で多少の価格差はあるものの、V車よりもN車の方が買い得感がある。さらに、売れている方が次に下取りに出すときは買取が高くなるだろうと、この時点で候補車が入れ替わってしまった。最初に「前日、V車を見て検討している」と伝えているので、営業マンも力が入る。雑誌に紹介されている通りだ。

 例によって、下取り車の査定を依頼した。車種とナンバーを告げて、キーを渡す。別に立ち会うことなく勝手にやってくれる。それが分かっていたので、今朝買った「月刊 自家用車」を運転席の横にさりげなく放り出しておいた。私流の演出と言うか細工である。その成果があったのか、私が候補に選んだN車のグレードは昨日のV車に比べて4万円高ながら、「(V車と)同じ金額でやらせていただきます」という昨日よりも良い条件を営業マンから引き出すのにさほどの時間は要しなかった。

<さらに、つづく>

(秀)