第931話 ■宇多田ヒカルと衝動買い

 この前の週末、宇多田ヒカルに誘われて、トヨタの某ディーラーショールームに足を運んだ。もちろん、彼女に電話なりで、「一緒に行こう!」などと誘われたわけではない。彼女の新曲「COLORS」を使った新型車「WISH」のCMを見て、実際にその車を見てみたいと思った。確か、金曜日からこのスポットCMが盛んにテレビで流れていて、この土日が発表展示会と伝えていた。そのためだろう、そのショールームには多くの客が来ていた。

 「WISH」の展示車両は2台あり、早速中を覗いてみたが、思ったよりも多少、車内は狭かった。まあ、それは今乗っている車に比較しての話でしかない。多少小さいだろうと覚悟はしていたが、排気量が2000ccのミニバンから1800ccのミニバンではそれなりの差があって当然だろう。「WISH」は価格が安いので気になったが、これではちょっと困ってしまった。

 ふと横を見ると、別のミニバンが展示されている。こっちは2000ccで、「WISH」に比べると、40万円くらい高い。しかし表示された車両価格の額の横に「この車に限り○○○万円」と20万円値引きするとの表示が出ていた。この表示を見て家人は、慌てだした。「あの人、買うのかしら?」と遠巻きに牽制している。今乗っている車よりも多少車内が広くなることと、この値頃感、それに「この車に限り」という文句で購買意欲が大いに刺激されたようだ。「こっちの方が良い」と言う。

 この展示車に群がる他の家族を横目で牽制しつつ、下取りの査定を依頼した。前の家族がその車から離れた直後に、我が家族がその車を占拠した。「見積りの金額次第では買うぞ!」という気になって、他の人に買われないように下取りの査定が済むまで、そのまま占拠を続けようかとも思ったが、係員に尋ねるとそれは「在庫品限り」というわけでなく、このモデル・グレードの車ならという意味だとの説明を受けて、我々は落ち着きを取り戻した。

 下取りの査定額はほぼ私が予測していた通りの額だった。しかし、あと5ヶ月もすれば車検も切れるので、これから先の数ヶ月で大幅な査定額の減少が予想される。この具体的な査定額の提示を受けて、買い換えるなら早い方が良い、という自分なりの結論に達した。こういうわけで、宇多田ヒカルの曲に触発され、ふらりと車を見に行って、別の車ながら車を買う気になってしまった。

 占拠した先程のミニバンで諸費用も含めた見積りの作成を依頼した。値引きは先程の20万円。更に話を進めて5万円の値引きと、「最終的に決めていただけるときにもうちょっとは検討できると思います。但し、今月中にお願いします」と、含みを持たせている。「今月中というのは31日ですか?。夜でもいいですか?」などと、家人は聞き返す。「月末とは言わず、明日も(店は)やっていますので、早めにお願いします」という言葉に送られて、その日は引き上げた。

<つづく>

(秀)