第946話 ■CDとの遭遇記

 CDが世の中に登場したのは私が高校1年生のときだった。市販されたのはその年の終わりか翌年頃だったかもしれない。’82年のことだ。最初にその情報に接したのはFM系のオーディオ雑誌での記事だった。特に当時FMにはまっていたわけでなく、音楽情報が載っている雑誌として読んでいた。そもそも当時私の地元で聞けるFM局はNHKとかなりノイジーな隣の県の民放FM局しかなかった。

 話を戻すが、その紹介記事では「コンパクトディスク」という名称ではなく、「デジタルオーディオディスク」という名称で紹介されていた。ノイズがないということと、頭出しが即時にできるという特長に現物を見る前から心震えた。市販品が世に出始めた直後、街の電気屋でその姿を早速拝んだ。ディスクトレイがローディングする方式のものと、ディスクを垂直にセットし、回転する盤面が正面から見えるタイプがあった。後者のタイプが見ていて面白く、店でもそのタイプを目立つ位置に置いていた。値段は最初、20万円ぐらいで、ハイファイのビデオデッキも同じぐらいの値段だったと思う。

 高音質は魅力だがこんなに高くては話にならない。結局、高校時代、CDデッキを持っているものは周りに誰もいなかった。この間にデッキの値段は下がり始め、定価で5万円台というのも出始めたのが私が高校を卒業する頃で、それを期に私はついにミニコンポと一緒にCDデッキを買った。約10万円と、過去最大の買い物だった。

 届いた箱を開け、セッティングし終え、CDデッキのトレイを開くと1枚の銀板が出てきた。実際にディスクに触れてみるのは初めてのことだった。どうしてディスクが入っているのか、これが本物のCDかどうかわからないまま再生ボタンを押してみると本当に音が出て驚いた。昔、ラジカセを買うとサンプルのテープが付いている時期があったが、今回はそうでもなさそうだ。展示品を箱詰めして発送する際にデモで使用していたディスクを抜き忘れたのだろう。カシオペアのディスクだった。いかにもデモ的なディスク選択だと納得した。

 銀板に自分の顔を映してみたり、虹色の輝きを見て、悦に浸ったりした。せっかくデッキがあるので買いに行った最初のCDは大滝詠一の「EACH TIME」だった。当時、LP2,800円に対し、CDは3,200円。しかも、LPが先行発売され、CDにならないものもあった。アナログレコードとCDの立場が逆転したのはそれから2年ぐらい経ってからではなかろうか?。シングルもCDで出るようになってからのことだったと記憶している。

(秀)