第947話 ■スピード散髪

 先週末、息子を床屋に連れて行った。今までは家の近くの床屋を利用していて、息子一人で行ったりもしていたが、正直、カットが下手なのでやめることにした。顔剃りも洗髪もなく、おまけに下手なカットで二千円というのが耐えられなくなった。そこで、出掛けたついでにスピード仕上げのカットオンリーの店に行ってみた。大人も子供もカットのみ、顔剃りも洗髪もない。ただし、所要時間は約10分と早い。料金も980円、780円である。

 店の中には椅子が4つあった。店員はこれまた4人いる。しかし、その4人がそれぞれはさみを持つわけではない。私が見ていた範囲では一人だけ、茶髪のストレートロン毛の坂崎幸之助といった感じのスタッフのみ。受付をしてほんの数分後に名前を呼ばれ、椅子に座ると店員の一人が前処理をする。準備ができると、ここでちょっと待たされるが、しばらくすると隣の人のカットを終え、例の坂崎幸之助がやって来る。隣ではまた別の店員がカットを終えた客の襟足をバリカンで整え、それが終わると、席に備付けられた掃除機で客の頭から切り落とした髪の毛を吸い取る。

 「お父さんは今日は良いですか?」と店員に誘いを受けるが、やんわりと断る。かねてより、スピードも品質の一つと評価する私の考えは変わらない。しかもそれで料金が安いとなると、これまでの私の判断基準からいけば、良いこと尽くめであるが、気が引けてしまった。急いでいるときにはそれなりに魅力だろう。待ち時間も少ないため、それを評価して客が来るのも分かる。しかし、散髪のときぐらいゆっくりとしたい。蒸したタオルを顔に載せられ、リクライニングをした椅子でうつらうつらとする。私がそこでの誘いを断ったのは床屋はそうあるべしと思ってのことだった。まあ、それぞれのニーズに合わせて選べば良い。

(秀)