第982話 ■叔父のスピーチ

 明日は姪の結婚式で静岡に行かねばならない。長姉の次女だ。私が小学3年生の時に生まれた姪だ。ちなみに彼女には2つ上の姉がいて、よって私は小学1年生の時点で叔父という肩書きを入手した。今日、私が家に帰り着く前に、家に長姉から電話があった。「明日、簡単なスピーチをして欲しい」との伝言があったようだ。

 普通、新郎新婦の身内が、しかも血縁者がスピーチなり挨拶をするケースはあまりないと思う。両親への花束贈呈の後、宴がお開きとなる前に、お礼の挨拶を新郎の父親が申し述べる機会はよくあるが、これではなかろう。やはり何かしらのスピーチをしろということのようだ。血縁者でありながらスピーチなりをしなくてはならない理由にいくつか思い当たるふしがある。嫁ぐ先が新婦の地元からはかなり遠方であるため、地元の友達などが駆けつけるような雰囲気ではない。よって、新婦側でスピーチする候補者がいないということだろう。それともう一つ。本当はこれが主たる要因だと思うが、「標準語で話せること」。地元同士の縁組であれば問題ないが、今回は方言丸出しでは通じない。

 普通、披露宴でのスピーチは新郎新婦に向かって行いながら、ついでに参列者にも聞いてもらおうというスタンスであるが、血縁者が新郎新婦を誉めちぎるのはやはり変だ。そこで明日は構わず、参列者の方を向かって、どうして血縁者の自分がこうしてスピーチをやらされる羽目になったのかを振りに話を始めようと思う。しかし、司会者に紹介されたところから私にとっては設定が始まっている。「ご紹介いただきました、新婦の叔父であります…」と語った時点で、いや「新婦の叔父様でいらっしゃいます…」と司会者が紹介し、私がマイクの前に姿を現した時点で既に多少のインパクトがある。

 叔父、姪と言いながら、9歳しか歳が離れていない。司会者の紹介でどこぞの親爺が現れるかと思ったところに予想よりも遥かに若い男が登場するわけで、何かの間違いかなと思ったが、その男は確かに新婦の叔父と名乗っている。私としては、ちょっと悪戯をしているようで面白い。実はこのパターン、数年前、彼女の姉の結婚式の際に、スピーチこそしなかったが、新郎側や新婦の同僚に挨拶して回りながら、結構驚かれ、楽しませてもらった。何しろ7つしか違わないのだから。

 今回新婦となる姪が、10年前に修学旅行で東京にやってきたとき、自由時間に親戚との面会・外出時間があるということで、六本木の宿泊先まで迎えに行ったことがある。ロビーで彼女を見つけ、担当の先生に迎えに来た旨申し出ると、その若い女の先生はちょっと驚いていた。不審がっていたかもしれない。手元のリストには叔父という続柄と私の名前が記されていただろう。その叔父だと名乗る男は当時26歳。ジーパンにトレーナーという格好で現れた。そんな思い出話を明日はかましてやろうか。結局、新郎新婦には何のはなむけの言葉ではなく、参列者に「新婦の叔父は若い」という印象を残す以外何の価値もない話であろうが、それでも良かろう。

(秀)