第987話 ■幼稚園バス

 長男が通っていた幼稚園がここのところ人気が出て、少子化傾向が続く中、入園希望者が多いらしい。その理由は単純ではなく、競合先との相対的な関係というのもあるかもしれないが、幼稚園バスを最近新調したことも大きく影響していると思う。かつては普通免許でも運転できる白いボックスタイプの車で送迎していた。何の飾り気もなく、幼稚園名がボディの横に書かれているだけで、いわゆるガテン系の人々を現場に送り出す、あのタイプの車である。

 一方、競合他園は以前から一般的なマイクロバスタイプの幼稚園バスを持っていて、マンションが立ち並ぶ細い道まで迎えに来ていた。ようやくこのインフラ部分においてこの2つの幼稚園は同じレベルに達し、やっとソフトの部分(先生の評判や教育方針)で競争できる状態になったと言えよう。

 私は幼稚園ではなく保育所育ちで、送迎バスなどなかった。一方、他の幼稚園では幼稚園バスでの送迎があることを知って、ずいぶんうらやましく思った。歩くのが嫌で、バスに乗って楽をしたというわけではない。乗り物として興味があり、デザイン的にもかわいく、また路線バスのように誰でも乗れるわけではない部分に魅力を感じていたのだ。

 そんな思いも果たせぬまま、やがて小学校に進んだわけだが、数年後、ひょんなことから幼稚園バスに乗る羽目になった。町区の子供会で夏休みに海へ行くことになった。以前は子供の数も多かったが、世代の隙間に入り込んだこともあり、私達の前後では子供の数が少なかった。子供会会長のおじさんが「それでは海にはバスを手配しておくから」と言うので、当日、集合場所で待っていたら、そのおじさんが幼稚園バスで現れた。確かに一般の貸切バスでは空席だらけでもったいない。「さあ、みんな乗れ!」。集まっていた子供達は目が点になってしまった。中の座席は子供用で小さかった。あまりの恥ずかしさでバスから外を見ることなく、一刻も早く海にバスが到着することを祈った。

(秀)