第988話 ■ブラックジャックによろしく

 妻夫木 聡が新人の研修医を演じるドラマだ。金曜日にTBSで放送されている。いわゆる職業ドラマであるが、メインストーリーは妻夫木演じる斉藤 英二郎が医師として成長していく姿・過程を描く、ヒューマンドラマであろう。彼は医者の本分は患者を救うことという穢れなき理想と現場で体験する現実像とのギャップの中で日々悩み、喘いでいる。

 これまで2話放送されたが、1話目ではバイト先の救急病院で、戦場のような治療室での先輩医師たちの技術に惹かれながらも、その病院は自由診療(医療費が健康保険などに比べると3倍ほど高い)による高収入のため、交通事故の患者ばかり受け入れている。人助けではなく所詮は金儲けのためかと疑問を持つ。そして、圧倒的な医者不足。「新米であろうと研修医であろうと、患者の前ではお前は医者だ」と言われる。

 また大学病院での研修では教授を頂点としたヒエラルキー、医局を舞台にした派閥争いで、正しい医療というものが曲げられている現実がある。助教授役の三浦友和が「医者もサラリーマンさ」と語る。彼もかつては妻夫木のような志を持っていたのかもしれないが。金を取るか出世を取るか?。大学病院に勤務する医者の実像(と思っているだけだろうが)がふと垣間見える。

 最初に大学病院で受け持った昏睡状態の老人を何とか救おうと努力するが、助教授は延命処置の中止を告げる。家族は患者の回復を願いながらも、意識のないまま今の状態が続けばこの後、家族には数百万円規模の医療費の負担が続く。生きていて欲しいと願いながらも、延命措置の中止を受け入れた後ろめたさから、家族はその日を境に病院に見舞いに来なくなってしまった。

 このように様々な矛盾が新人研修医の身に降りかかり、自分の理想との間の葛藤にさいなまれる。その矛盾を克服することなどできず、また新たな矛盾が彼を襲う。エンディングでの爽快感など一切ないが、悩める研修医にエールを送りながら、彼を見守り、次の放送を楽しみに待っている。

(秀)