第993話 ■恨みの建造物再び

 統一地方選挙の後半戦もついに終わった。もっとも身近な選挙として、一部では血縁、地縁を巻き込んだ旧態依然の選挙戦が繰り広げられたところもあったことだろう。無投票というのだけは何とかして欲しいなあ。無党派層に迎合して、政党の支持を取り付けずに選挙を戦う候補者が多かったのも今統一地方選挙での特徴の一つと言えよう。それは有権者の政治離れの一過程であり、それに迎合していると全体での平均投票率が50%を切る日がくるのが早まりそうな気がしてならない。

 さて、後半戦の中での注目はやはり滋賀県豊郷町の町長選挙だったろう。リコールにより失職していた前町長がからくも再選を果たした。次点者との票差はわずか55票差。先のリコール投票で勝利していたため、小学校保存を訴える町民側からの対立候補者の方が有利かと思われたが、この陣営が分裂し候補者が2名立候補する形で前町長を勝たせる結果となってしまった。

 選挙戦は反前町長を掲げる前町議と元町長に、前町長が加わり3名の戦いであった。反前町長派の一本化さえできていれば、反前町長派が勝てていた選挙だった。前町長にしてみればまさに漁夫の利である。この元町長というのが曲者である。よほど前回の選挙での敗退が悔しかったか。反前町長の世論を感じて校舎改築問題を舞台にかつての政敵として町民の支持を取り付けようとしたのであろう。

 しかし、そこには大きな誤算があった。元町長の獲得した票数は当選者のわずか8分の1程度でしかない。当選するには足りないが、それでも当選を邪魔するには十分な票数だった。結局のところ、かの有名校舎は政争のための道具に使われたに過ぎない。校舎改築の是非ではなく、反前町長として結束し、前町長を葬り去るためのシンボルとして利用しただけではなかったのか。そして最後は分裂、こんな選挙結果。

 一連の動きを振り返ってみる。得をしたのは誰か?。強いていえば再選を果たした町長だろうが、この間失職したりとその苦労を考えると得をしたは言い難い。では損をしたのは誰か?。一番は反前町長派に担ぎ出されて選挙に負けた前町議だろう。立候補に際して、町議の座を捨てている。校長や教育長のみならず、更なる不幸を招いた、まさに恨みの建造物。

(秀)