第2040話 ■高2の夏の上京から

 高校2年の今頃、ばあちゃんが死んだ。そして、その葬式で父方の親戚と言う人と運命的な出会いをした。親父の従兄弟で、東京に住んでいた。その当時、放送作家になるのが夢で、深夜ラジオに投稿を続けていて、東京へのあこがれが特に強かった頃だったから、「夏休みに、遊びに来たら良い」という、本来社交辞令でしかないだろう、おじさんの言葉を真に受けて、その夏、初めての上京を果たした。

 そこには、大学生の「はとこ(再従兄弟)」の兄ちゃんがいて、いろいろと東京見物に連れていてもらったし、「ビートたけしのオールナイトニッポン」の日には、ニッポン放送前で殿の出待ちをした。何度か、これまでもハガキは採用されていて、この日に着くように送っていたけど、この日は採用されなかった。しかし、放送が行われている建物の前で抑えきれないほどの高揚感でラジオを聞いたこの夜のことは一生忘れない。

 帰郷のため、東京を発つ前の晩、おじさんがこんなことを教えてくれた。「やりたいことがあっても、願わないことは叶わない。けどな、願っただけでは叶わんよ。願うだけで叶うなら、これほど楽なことはない。さてどうするか?。まずは手を挙げること、わかるかな?」「会社は、その人がそのことをできるかどうかじゃなくて、自分から進んでそのことをやろうとしているかどうかを見てる。学生のときは黙ってても試験がやってくるから、それで良い点数を取れば良いけど、社会の中では、自分からチャンスを取りにいかないと、待っていても何もやってこない。手を挙げるとは、そういう意味。けど、両手を挙げて、『お手上げ』じゃダメだぞ」

 2学期になって間もなく、初めて彼女ができた。グループ交際からのスタートだったが、「東京に行ってきた男」として、周りが持ち上げてくれた効果。これまでは「どうせ・・・」とやる前に勝手に諦めていたことが結構あったけど、実際に東京に一人で出掛けたり、ニッポン放送前で出待ちしたり、そして何より、初めての彼女もできたりと、明らかにこの夏休みの出来事は自分の人生を大きく変える一週間だった。

 あっ、これフィクションだから。今書いている小説のプロットからの書き起こし。自分のことではないよ。

(秀)