第276話 ■丸井

 コント赤信号のデビュー当時の登場パターンは、兄貴ネタと決まっていた。最初に登場した石井と小宮が舞台の袖に向かってリーダー渡辺を呼び出す。「兄貴~!、兄貴~!」。もったいぶって登場したリーダーが「待たせたな!」という台詞にあわせて、サングラスをはずすと、目の縁にはキラキラとラメが塗られている。しかもそれはしばらく経つと、左右別の色のラメへとバージョンアップしていた。この後に石井と小宮は兄貴のいでたちを誉めまくる。「レイバンのサングラス、サンローランのジャケット、BIGIのパンツ、福助の足袋(これが軽いオチになっている)」、「兄貴、これだけ揃えるには、ずいぶん高かっただろうな?」。すると渡辺は胸の内ポケットからカードを取り出し、「丸井だぜ!」と言って、場内は大ウケ。オチが着いて、冒頭のシーンは終わり、本題のストーリーへと進む。

 しかし、この当時、田舎暮らしの私には「丸井だぜ!」というオチが何故面白いのか理解できなかった。丸井が何であるかを知らなかったからである。逆のパターンでは「地下鉄の電車はどこから入れたんでしょうかね?」という、三球&照代ネタは地下鉄を見たことない自分にはおもしろかったが(すぐに飽きたけど)、首都圏の人々には全くおもしろくなかったことだろう。上京直後、首都圏の地下鉄のほとんどが他の路線と乗り入れ、地上を走っていることに気が付くと、あのネタが何故全国的に通用したのか疑問が沸いて来た。ちなみに、営団地下鉄銀座線の渋谷駅は地上4階から発着している。

 話を戻そう、丸井の話であった。丸井とは首都圏に数十店舗を構える、若者向けの百貨店である。特に丸井カードというリーダーがオチの小道具として使用する、赤いカードで若者にも割賦販売を行い、その規模を拡大していた。しかし、この事がオチになるのは赤いカードのデザインがどこか時代遅れであること(その後一新された)と、せっかくのブランド品に身を包んでいても、月賦による買い物といった負い目や格好悪さが嘲笑の鍵となっていたわけだ。こんなことが上京してようやく分かった。

 田舎者で金がなくても、とりあえずここで買い物をして、それらしい格好ができるありがたさが良かった。入社当時はスーツを買うときなどに随分利用させてもらった。最初は支払いの方法が良く理解できておらず、申込時に口座からの自動引落の指定をしていなかったので、家に請求書が送られて来た。次の休日にその請求書を持って丸井渋谷店に向かい、とりあえず、入口付近の店員に請求書を見せると、「○階です」と支払いカウンターを紹介された。今思えばずいぶん恥ずかしい思い出である。