第1019話 ■老人ボウラー

 とある事情により、私はそのとき、平日開店前のボウリング場にいた。午前10時の開店にも関わらず、その10分前に集合がかかり、しかもそれよりさらに10分前に着いてしまった。通電されていない自動ドアの前で、床磨きをしている従業員の姿を眺めている。外は雨。ところで、どうして俺はスーツ姿なんだろう。

 集合時間を境に申し合わせた人々が集まってくる。そしてポツリポツリと年配の人々が自動ドアの前にやってくる。年齢層は60代後半ぐらいか。いわゆる、おじいちゃんとおばあちゃんだ。このような年代の人々を朝の駅周辺でよく見かける。日帰りバス旅行ツアーでバス待ちしている人々を思います。あとは健康ランドに無料送迎バスに乗って団体で押しかけて行きそうな人々だ。やがて自動ドアが開き、ドアの前で待っていた50人あまりの人々が一斉に中になだれ込む。

 中に入って、入り口付近の壁のポスターに目が行く。ボウリングのマイボール・マイシューズというのは一種笑いの的である。「力入りすぎ」、「そこまでやるか?」というツボらしいが、そのマイボール・マイシューズの類のカタログポスターである。その値段が果たして高いのか安いのかよく分からない。ピンキリであろうが、ボールはだいたい1万円ぐらいで買える。シューズは5千円くらい。そう思うと、貸し靴はほんの数日で元が取れるボロイ商売だ。だからと言って、買うのは気が引ける。

 先ほどの老人達は手際よく、早速投げ始めている。何人かのグループで楽しんでいる人もいれば、黙々と自主トレのように一人で投げているおじいちゃんもいる。この光景には驚いた。まさかこんな元気な老人達が平日朝のボウリングを占拠していようとは思いもよらなかったからだ。第一次ボウリングブームのときからやっているとしたら、相当のキャリアになる。これは結構怖い。毎日来てるのかな?。それとも、今日はボウリング、明日はバス旅行、その次は健康ランドと日替わりで楽しんでいるのだろうか?。

 彼らはもちろん、マイボール・マイシューズ派である。重たいからバッグはカートになっている。手にはロボットアームのような、手首をぶれないように固定するグラブを付けている。壁のカタログポスターによるとあれは3千円ぐらいで買えるらしい。欲しくはないけど、ちょっと値段が気になったもんで。

(秀)