第1018話 ■とっておくこと

 まさに不思議な心理だ。「取っておくこと」、「録っておくこと」。例えば読み終えた本。捨てきれずに、あるいは古本屋に売ることもできずに取っておく。別に全ての本をそうしているわけではないが、絶版のものやお気に入りの作家(特に故人)のものなどはそうなる傾向が強い。また読み返すのなら良いが、読み返すぐらいなら他の本を読むために時間を充てたい。けど処分できない。

 いつ見るとも分からないのにビデオに録り溜めた映画。なかなか見ることがない。ソースは地上波のみならず、スカパーなどからも録っている。きちんとテープを分けたり、標準モードで録っているわけではなく、何の脈絡もなく、タイトルがこれまた汚い文字で背見出しのシールに書かれている。例えばそのテープのうち、2本は見終えたが、もう1本だけが見ることなく放置され、棚に積まれたままになっている。2、3年間そのままのテープなんてのもザラ。その気になれば、レンタルショップで借りられる程度のものばかり。

 ビデオテープを見て片付けるにしても、映画よりも毎週のドラマの方を優先してしまう。まあ、1話1時間で済むところも気が楽だ。そして、保存しておきたい番組になると、これまたなかなか見ようとしない。「見たら消すもの」という心理が「消したくないものは見ない」という心理に転じる。永久保存版となると永久に見てはいけないものにもなりかねない。このあたりの事情は先ほどの本の場合とは大きく異なる。

 これら、コレクションとは別の「とっておく」心理は一種の安心感を求めてのことだと思う。側に置いておいて、いつでも必要なときに手にすることができる安心感。しかし、その必要なときはなかなかやってこない。この他にもこれから先使うことがなかろうにも捨てられずに残っているものはある。いつかまた着られるからと取っておく洋服。流行もさるものながら、体型やサイズがそこまで回帰することはおそらくなかろうに。

(秀)