第1033話 ■ヘルシア

 「ヘルシア」というペットボトル入りのお茶が私の周りで大ブームだ。販売元は花王で首都圏を中心としたコンビニで限定的に販売されている。何ゆえ大ブームかと言えば、それはパッケージに記された「体脂肪が気になる方に」というコピーのせいに他ならない。350ミリリットルの小振りなボトルで180円という高価ながら、しかも苦い煮詰めたような緑茶でありながらもこのコピーの前ではそんなもの吹っ飛んでしまうどころか、逆に有り難味を増してくる。「高カテキン」なのらしい。

 会社の近くのコンビニの一つでは毎週売れ筋の飲み物を発表し、ここのところずっと一位をキープしている。その雰囲気はまるでダントツのようだ。一位のランキングボードに店員のコメントとして、「こんなに売れて良いのか?」とまで書かれている。その扇動効果もあるのか、レジに並ぶ人の手にはヘルシア。会社のデスクの上で最もその姿を目にするボトルもヘルシア。会社の中の自販機で売っているわけでもないのに。

 それにしても見事なコピーだなあ、と思う。もう一度読み返してみる。「体脂肪が気になる方に」。どこにも「体脂肪が減ります」とは一言も書いていない。にも関わらず、実際に効く効かないに疑問を持ちながらも、買う方は当然の如く、このコピーを「体脂肪が減る」と思って買っているはず。ズバリ、「体脂肪が減る」と言っちゃいけないところでもあろう。

 実際の効果の程がどうであるかはさておき、このブームの実態はコピーによる、まさに思い込ませ商法だ。それに、夏本番前というタイミングも良かった。コンビニでは「私、思い込みやすいタイプです」という人がヘルシアのペットボトルを持ってレジに並んでいる。あるいはデスクに自分が思い込みやすい性格であることを宣言しているかのようにヘルシアのペットボトルが置いてある。そういう視点で見るとなかなかこのブームは面白い。とりあえず、私もこのお茶が苦いことだけは知っている。

(秀)