第1073話 ■故郷の古本屋にて(2)

 私が帰省中に故郷の古本屋で買い求めた本は小学校の百周年記念誌だけではなかった。もう一つ私の名前が載っている本があり、それも買い求めた。それは高校の同窓会名簿である。ほぼ10年おきに名簿を発行していて、その前の号は持っていたが、平成7年版と記されたこの号は持っていなかった。

 その前の号が編集・出版されたときは私は大学生で郷里で自宅に住んでいたため、連絡先はその自宅になっていた。よって名簿出版の案内は問題なく私の手元に届いた。しかしそれからの10年間となると、就職や結婚という人生最大の転換期を迎える人が多い。私もこの間に就職、上京、結婚を経験した。とは言え、実家には次の名簿作成・販売の案内が送られていたであろう。親が私に知らせるのを忘れていたのかもしれない。だからこの号の名簿が作られていた事すら知らなかった。

 個人情報の保護・管理ということを考えれば名簿の類を発行することはこれまでのように易々とはいかないような気がする。ましてやそれが古本屋で売られて誰でも買えるような状態はとても困る。しかし今回はそのおかげで持っていなかった名簿を手にすることができたので私的には複雑な心境でもある。

 平成7年となると私は29歳である。自分の名前の部分を見るとそこには実家の住所が記されたままであった。情報を出していないので、勤務先は空欄になっている。ざっと私と同学年のページをめくると約半分の人は勤務先が記されている。ご時世か既に存在しない会社の名前もある。女性も約半分が旧姓が括弧書きになっていて、新たな姓が併記されている。

 「あの人は何組だったっけ?」、「何言ってんだ!、同じ組だったじゃないか」。一人でそう思いながらページをめくってある人の名前を探していく。彼女の名前は「片桐恭子」(第556~560話参照)。もちろん、名簿にそんな名前はない。けど確かに私はある女性の名前を探していた。

(秀)