第1135話 ■ワニのいた校舎

 私が通っていた小学校は児童数が千人をちょっと越えたぐらいの、当時としては、市内では中規模の学校だった。鉄筋コンクリート3階建てのいわゆる新校舎が正面にあるものの、全校児童がその建物に納まるわけでもなく、3年生までの低学年はその裏にある木造校舎に閉じ込められ、新校舎は上級生の教室や職員室などに割り当てられていた。

 低学年の教室は学年がだいたい4クラスで、その4クラスがそのまま入れるような一棟ごとに教室が4つのある木造校舎として点在し、各学年ごとにテリトリー分けされていた。そして、1、2年生の間はその校舎と運動場、それに給食室や一部、保健室などの行き来の他に別のテリトリーに入ることはなかった。

 ところがある日、それは確か2年生のときだったと思うが、謎の木造校舎一棟の存在が我々の中で大きな関心事となった。1年と2年の校舎は隣接し、その隣に渡り廊下を挟んで一棟の木造校舎があり、さらに奥の方が3年生の校舎になっていた。間にあるこの謎の校舎は教室として使用されておらず、そこにその建物があることは当然認知していたが、それが何であるかなど、当時の私たちはそれまで何ら意識していなかった。

 「オイ、オイ!、ワニだ、ワニ」。クラスメイトが教室に駆け込んでいた。そして彼は私たちを引き連れ、謎の木造校舎に入っていった。「ホラ!」。彼が指差す方には確かにワニがいた。剥製だったが。頭を下にして、縦に配置された大きなワニの剥製がガラス張りの木造ケースに納められていた。しかし何で使用していない校舎の廊下のつきあたりにこんなワニの剥製が置いてあるのかは全くの謎だった。

 この木造校舎の一棟はかつては普通の教室だったようだが、当時は空き教室となって、教材の倉庫として使用されていた。ホルマリン漬けの生物の標本が並べられている元教室。でかいコンパスやそろばんが並んでいる元教室、という感じであった。そして、次々と我々はこの校舎の探検を進めた。

 丁度、校舎の裏手に川があって、大雨となればすぐに氾濫してしまっていた。例のワニについて、「昔、大雨で裏の川が氾濫したときに流れ着いたのを捕まえて、剥製にしたらしい」との噂が走った。冷静な判断能力の備わっていない当時の私たちには真剣にそれが信じられていた。まだあのワニの剥製はあの学校に残っているのだろうか?。木造校舎は既にないらしいが。

(秀)