第1239話 ■青空のゆくえ

 昨日、映画を見て来た。「青空のゆくえ」。実に良い映画だ。これまでもいろいろと良い邦画について書いてきた。しかし、いずれとも違い、それを文章でどう伝えるべきか悩んでいる。とりあげて、どこと言うことではなく、設定と全体から醸し出される、ほのぼのとした切なさに郷愁を感じる。

 世田谷区三軒茶屋の中学校を舞台に、一ヶ月後にアメリカに引っ越してしまう男子生徒を軸として、同じクラスの五人の女生徒が登場する。彼を唯一の友人とする者、幼なじみ、同じバスケ部の女子キャプテン、彼と同姓の学級委員長、それに帰国子女。皆が彼に対して好意を抱いている。ある者の思いは恋である。そのことを友人に告げるがその友人も彼のことが好きだった。いや、好きである気持ちがようやく自覚できたといった感じだ。気持ちに正直になれずに、打ち明けもできない、そんな年代の彼女たちが表現されている。そして、彼女たちの友情にも変化が出てくる。

 彼が旅立つ前に揃って、お別れ会と称し、花火をやるシーンがある。キラキラと光を放ち、やがて消えてしまう。こうして一緒にはしゃいでいても、やがて彼とは別れてしまう、そんな状況を表現しているのだと私は解釈した。彼ら、彼女らの演技は実に自然であった。芝居がかっておらず、日常の生活を見せてくれているようなそれである。演じている雰囲気ではない。特に花火のシーンはただ花火をして楽しんでいるのを撮っているだけだろう。ストーリーが極めてリアルで有りがちな日常的だからに違いない。数年後、彼らは日本映画を支えていくに違いない。

 この映画には見せ場というものもなく、ストーリーの大きな展開となるようなイベントもない。ただ単にクラスメイトが転校していくだけの話である。そんな地味な題材ながら、いや、地味な題材だからこそ、見る人の共感を誘い、切なさに心が震えるのだと思う。やがて彼が去り、またいつものような彼女たちの日常が繰り返される。初恋と友情。若さには青空がよく似合う。今の日常から消えている分楽しめる。公開先が少ないので、DVDリリース後に鑑賞をお勧めしたい。

(秀)