第1254話 ■凧揚げ

 私の小さい頃の凧と言えば、駄菓子屋で売られていた奴凧だった。絵は奴さんではなく、ヒーローのイラストだったと思うが、それが具体的になんであったかはあいにく覚えていない。誰から習ったではなく、凧には足が必要ということで新聞紙を切って足を貼り付ける。足を付けなければならないと言われてもそれが何を目的としたものか理解できないため、バランスなんか関係なく、いい加減な足を付けてしまう。

 足を付けた奴凧をいざ揚げる段になったら、一人で家と家の路地を凧を背に走り回る。糸を長くしようものなら、バランスが悪くくるくる回るか、地面に落ちたまま引きずることになる。これでは凧揚げではなく、凧引きだ。結局、正しい凧揚げの仕方を知らないまま、その一日で凧引きに飽きてしまい、奴凧はおもちゃ箱に仕舞われ、やがてボロボロになる。

 それから数年後、画期的な凧が現れた。ゲイラカイトである。大きな目玉が描かれた三角形の洋凧だ。「ヒューストンからやってきた」というコピーにヒューストンがどこにあるのか分からぬまま感動した。早速、近くに住む達ちゃんが買って、一緒に揚げに行った。稲刈りが済んだ田んぼは障害物などなく、絶好の凧揚げスポットだった。何しろこの凧には新聞紙の足を付ける必要がない。私が凧を持って、達ちゃんが糸を引く。呆気ないほど簡単にするりとカイトは昇っていった。ぐんぐん、ぐんぐんとその調子でカイトは揚がり続けて凧糸一巻き分揚がってしまった。

 しばらく後、私もゲイラカイトではないものの洋凧を手に入れ、達ちゃんたちと凧揚げを楽しんだ。そして、小学校高学年になって、冬休みの宿題で凧を作ることになった。障子紙を使っての簡単な和凧である。今度は足の理屈も分かっているので、何度も試しながらバランスの取れた足を付けることができた。学校で昼休みに揚げていたら調子に乗って凧糸二巻き分(80m×2)も揚げてしまった。掃除開始のチャイムが鳴って急いで下ろしに掛かったがなかなかそう上手くいかない。結局完全に下ろしきった時には掃除の時間が終わっていて、掃除をさぼったことを担任の先生にたいそう怒られた。

 あれ以来凧揚げなどやっていないが、風が強く寒い今日この頃、「今日は凧、よく揚がるぞ」なんて思ってみたりする。昔は確かに風の子で少々寒くても遊ぶときは平気だったよね。

(秀)