第1280話 ■消しゴム

 思い返してみれば、私は最後まで満足に消しゴムを使い切った記憶がない。最後あたりになると、力の加減でボロボロと砕けるように分裂してしまう。そして掴めなくなった大きさのものからゴミ箱行きとなる。これはまだ真っ当に使用した方であろう。後はいつの間にかなくなってしまうケース。なくなったときのことも想定して消しゴムを複数筆箱に入れるようになったら、そのうちの一つがなくなっても頓着しないようになってしまった。

 私がちょうど小学生のときにスーパーカーや怪獣の消しゴムが登場した。消しゴムだから大手を振って学校にも持ち込める。しかしその機能は文字を消すことではなく、指ではじいて机の上を走らせたり、トントン相撲の力士としてである。第一、その消しゴムで鉛筆は全くうまく消えず、むしろ紙を汚してしまう。だから本物の消しゴムを忘れたからといって、スーパーカーや怪獣の消しゴムを使うことはタブーだった。後に筋肉マンの消しゴム、「筋消し」がブームになったが、そのときには既に私たちの世代はその現役ではなかった。

 たかが消しゴム、されど消しゴム。これまでに果たしていくつの消しゴムを使用してきたことだろう。しかし、最近は鉛筆やシャープペンで字を書くことが大幅に減ったし、綺麗に消して書き直すことなく、線で消してしまうことが多く、消しゴムを使用する機会がほとんどなくなった。会社の机の引き出しにはたまに活躍の場を与えられる、小さくなった消しゴムが転がっているが、家では「おーい、消しゴム」と声を出して子供たちの部屋のドアをノックする。確かに無いなら無いなり困る。

(秀)