第1465話 ■花見の思い出

 東京で桜の花が咲いた。まだ咲いていない枝の先もピンクに色づいていて、光に透けると、もう秒読みであることを告げている。この週末はほぼ満開に近い状態で、各地で花見の賑わいだろう。通勤電車からの風景にもピンクの塊があちこちに見えて、それだけでも気持ちが華やいでくる。やはり、桜の花は良い。

 花見だ、花見だ、という掛け声は聞くものの、ここ20年近くはじっくりと腰を据えて花見をしたことがない。都会では桜の本数に対する人の数が多いので、桜の木の下を行列をなして歩くのが精一杯。それでも結構な混雑である。露店目当てに花より団子ときたもんだ。

 私にとって思い出に残る花見と言えば、大学2年のときのそれである。もう4月に入っていて、間もなく新学年というタイミングだった。何の前触れも準備もなく、先輩達数人と一緒に地元の公園まで花見に出かけることになった。そのときに手ぶらでも現地調達で何とかなるといった話を聞いていた。昼過ぎからてくてくと大学を歩いて出発した。

 市内を流れる多布施川沿いの小さな道を上流に向かって登っていく。沿道にも桜の花が満開を過ぎた状態で咲き誇っていた。普通だったら決して歩いて行くような距離ではなかったが、どういう心理だったのか、この日は片道30分以上を掛けて目標の公園まで全員で歩いた。出発が遅かったこともあって、着いたときにはそろそろ夕方が近い時間になっていた。

 この公園は桜の名所として地元では有名で、花見客を相手にした露店が臨時に出ていた。まずは場所を確保する前に、ゴザを借りる。一畳分で50円だった。続いて、酒と食料の調達。酒はカップ酒を数本と食料は、たこ焼きとおでんを買った。このときのたこ焼きとおでんは本当に美味かった。お替りを求めて再度店に買出しに行ったが、もう旬を過ぎた平日であったことと、時刻が遅いこともあって、これ以上の調達は無理だった。日が暮れてきて、寒くなってきたので、もと来た道をまた歩いて帰った。

(秀)