第1545話 ■キーワードは「10年」

 暑中お見舞い申し上げます。

 私の高校では同じ学年の集まりが、ここ10年ばかり毎年行われている。うち、3回に参加した。ちょうどこのタイミングで帰省した際は出るようにしているが、最近の盆と正月は移動が大変なので、帰省していない。何事も習慣であって、たとえ1年毎のイベントでもきちんと毎回開催されていれば、結構続くものだ。しかしながら、毎回の参加者が地元に残った人で固定化されていく事実もある。

 2年前に引越しをして、その年に郵便局から転送されてきた案内の返信に引っ越した旨、新しい住所を書いて送り返したが、その翌年から案内葉書が届かなくなってしまった。このため、7月の終わり頃になると、時節の挨拶も兼ねて、故郷の隣県に住む女性の友人に「同窓会の案内葉書届きましたか?」とメールを送っている。

 ちょっとした近況も報告しあう。前回は彼女から次のようなメッセージをもらった。「最近、重松清を読んでるんだけど、ヒデの文章に似てるな、と思いました」、と。実際には、重松清の文章が私の文章に似ているのではなく、その逆だ。私は重松清を尊敬しているので、多少なりとも文章が似てくるのだろう。いずれにせよ、私としては嬉しいことだ。

 重松清の作品は数多くあるが、私が最も好きなものは「なぎさホテルにて」という短編小説だ。彼が直木賞を受賞した短編集「ビタミンF」に収録されている。このホテルには、10年後に配達される「タイムカプセル郵便ポスト」が備え付けられていて、このポストにかつて投函された手紙を媒体にして、あるカップルの過去と現在が語られていく。彼の表現力も素晴らしいが、それ以上に彼の構成力の確かさを痛感できる作品だ。

 日々、うまい文章を書きたい。良い文章を書きたいと願っている。書き続ければ力も付いてくるだろうが、それ以上にうまい文章、良い文章をたくさん読むことが大切だと思っている。しかしこれが最近ほとんどできていない。これではいかん。自戒の意味も込めて、また「なぎさホテルにて」を読み返してみることにしよう。

(秀)