第1650話 ■上京20周年

 今からちょうど20年前、正確な日付までは覚えていないが、3月の今日くらいの日に田舎から就職のために上京してきた。地元の駅から、後に嫁となった彼女の見送りを受け、特急電車に乗り出発した。途中で新幹線に乗り換え、東へと向かう。「木綿のハンカチーフ」みたいだ。母親は駅で泣くと恥ずかしいからと家で別れを告げ、親父とはどんな別れをしたのか、あいにく覚えていない。

 初めて東京上陸となるはずが、新横浜で新幹線を降り、目的の二子新地という駅は多摩川を挟んで川崎市にあって、東京上陸は先送りになった。二子新地の駅に着いたときは夕方近かった。しとしとと雨が降っていて、駅そばのコンビニに駆け込んだ。九州にはない、その見馴れないコンビニはファミリーマートだった。そこで傘を買い求め、歩いて5分と案内されていた社員寮へ急いだ。

 管理人さんに土産として、博多駅で買ってきた「ひよ子」饅頭を渡した。珍しいものをと選んだものだったが、東京の人は、ひよ子が東京のものだと信じているくらい、ひよ子は東京で馴染みのものだと気がついたのはそれからしばらくしてからのことだった。その日の晩は再度ファミリーマートに出かけて、コンビニ弁当で済ませた。

 懐には春休みにバイトで稼いだ金とご祝儀やらで、初任給までの生活費。荷物は布団に衣類。新たに買ったスーツ1着にブレザーとスラックスの1組。それと親父のスーツを1着失敬してきた。14インチのテレビとCDラジカセも持ってきた。3ヶ月間の研修で九州の支店に配属されるものだと思っていたので身軽にしたつもりだったが、テレビとラジカセは外せなかった。

 何とかなるさ、で飛び出して20年。確かに何とかはなっている。配属は東京になり、その後も転勤はなく、東京で働いている。結婚して、家族をもうけ、この間、4回引越しをした。いや、それにしても、あっ、と言う間の20年だった。青年老い易く嗚呼早20年。

(秀)