第1656話 ■「四月物語」ふたたび

 毎年この季節、4月となる度に風物詩のように私は「四月物語」という映画を見ないと気がすまない。松たか子の初主演映画である。今年も今日見終わった。

 松たか子演じる楡野卯月(にれのうづき)は、この4月に東京の大学に通うために北海道から上京してきた。彼女が通う大学は武蔵野大学。周りは彼女が何故この大学を選んだのかを尋ねるが、彼女はその答を言いよどんでしまう。

 冒頭のシーンで家族に見送られて、地元の駅から電車で東京へと向かう。旭川という設定であるが、雪の中の駅から出かけ、途中で飛行機に乗ったのかどうかは分からないが、雰囲気的にはそのまま電車を乗り継いで上京して欲しい、そんなテンポで全体の話は進んでいく。

 一人暮らしを始める部屋にたどり着いたとき、何もない部屋に新たな生活への期待と不安が表現されているような気がした。そこに桜吹雪の中、引越しの荷物を載せたトラックがやってくる。部屋には入りきらないような多くの荷物が届き、彼女の生活はスタートした。

 彼女が東京に、しかも武蔵野大学にやってきた理由は高校生のときに憧れていた先輩を追っかけてのことだった。「武蔵野堂」という本屋でその山崎先輩がバイトをしているという情報を得て、それから半年猛勉強をし、大学に合格できた。担任教師は「奇跡」だと言った。

 卯月は目的の武蔵野堂を探し出したが、山崎先輩の姿はそこにはいない。それでも武蔵野堂に通い、3回目で先輩を見つけた。先輩も彼女のことを覚えていてくれて、声を掛けてきてくれる。好きな人と会った瞬間のそのドキドキ感が見ている側にも伝わってくる。この映画の見どころはまさにここにある。

 店を出れば、にわか雨。店から赤い傘を借りたが、その傘は壊れていた。「今度返しに来ます」という彼女の言葉に、先輩は「いいよ」と言うが、それでも「返しに来ます」と言う。再会への約束の意思表示なのだろう。この赤い傘が雨の中に咲き、映像的に美しい。

 さて、彼女の名前「卯月」。これは4月の和名である。だから、「四月物語」は「卯月物語」で彼女の物語という意味も込められているのだろう。見終わったとき、ちょっとハートウォーミングな気分になれる、そんな映画だ。おすすめ。

(秀)